
固定席で仕事をするオフィススタイルから、フリーアドレスへ変更する企業も増えました。さらに、フリーアドレスからより自由度の高い働き方ができるアクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)というワークスタイルの導入を検討する企業も存在します。ABWとは、オフィスデスクに限らず、働く人が自由に作業する場所を選べるワークスタイルです。例えば、個室やソファ、カフェなど、自分が今やらなければならない仕事に最適な環境を選ぶことができます。ABWとはどのような働き方なのか、メリット・デメリット、導入する方法などを解説します。
ABWとは? フリーアドレスとの違い
「ABW」という言葉は聞き慣れない人も多いのではないでしょうか。一方の「フリーアドレス」は、実際に採り入れている企業も多くなり、認知度が高まっている言葉です。どちらもワークスタイルを表す言葉ですが、それぞれ考え方に違いがあります。
ABWとは、自分に最適な場所で働くスタイルのこと
ABWとは働く人が作業をするために、最適な場所を自分で選ぶことができるワークスタイルです。仕事の内容は日々変化します。打ち合わせが中心のときもあれば、資料作成が中心のときもあります。同じ資料作成でも、アイデアが必要なときもあれば、ひたすらパソコン作業に打ち込むこともあるでしょう。ABWはこのような仕事の変化に対応するため、仕事内容に応じて働く場所を自ら選ぶことができる働き方です。「仕事をする環境は自分で選ぶ」という考え方に基づいたワークスタイルといえます。
フリーアドレスとの違い オフィス以外の場所を選ぶことも可能!
フリーアドレスは固定席を設けることをしません。自席を持たない代わりに個人ロッカーなどの設備があることが多く、ワーカーは業務開始時に自分の荷物を働く場所に持っていき、帰宅時にはまた個人ロッカーなどに仕事道具を戻します。その日の座席を完全に自由に選んで良いケースもありますが、自分の所属するグループ席の中だけで座席を自由に選べるグループアドレスや、ダーツや座席決定システムなどを使って席が割り振られるユニークな座席決定方法もあります。
これらは、オフィスに在籍しているワーカーが少ない場合(在籍率が低い場合)に座席数の最適化を目的にしているケースがあります。また、固定席では難しいコミュニケーションの活性などの目的で採用されるケースもあります。
フリーアドレスについては、「失敗例から学ぶフリーアドレスを成功させるポイントとは?」「ルールと事前準備が大切!フリーアドレス導入で失敗しないために」の記事をご覧ください。
ABWを導入した場合の働き方の例
ABWを導入した場合、企画書や資料の作成のように集中して作業を行いたいときは個室で仕事ができます。上司とじっくり話をしたいときは、ソファに座って話し込むのもよいでしょう。新しい企画をまとめたいときは、カフェでコーヒーを飲みながらアイデアを練ることも可能です。このように、ABWでは自分にとって最適な環境を選ぶことで、仕事の効率を高めることができるのです。
ABWの導入については、「自由な発想でオフィス業務の効率化を実現するABWとは?」をご覧ください。

ABW導入により得られるメリット
ABW導入によるメリットは複数ありますが、なかでも大きなものとして挙げられるのは次のとおりです。
多様な働き方の実現
テレワークが導入されたことで、育児や介護などによりフルタイムのオフィス勤務が難しい社員でも継続して働けるようになりました。また、オフィスワークにおいても、フリーアドレスを採り入れることで業務内容に応じて最適な環境の選択が可能になっています。
ABWはこれらの多様な働き方をさらに一歩進めたものです。通常、テレワークの場合は自宅やサテライトオフィス、オフィスワークはオフィス内がワークスペースになりますが、ABWはオフィスに出社した場合でも、業務内容によってはオフィスを出てカフェやレンタルオフィスを選択することも可能です。また、テレワークであっても必要に応じてオフィスに出社しても問題はありません。
そのほか、育児や介護をしている社員であっても、午前中は出社できる、あるいは子どもが学校に行っている間は出社できるといったケースもあるでしょう。その場合でもABWであれば、出社できる時間だけ出社し、後は自宅でテレワークといったことも可能です。
従業員満足度の向上
ABWの最優先事項は社員の働きやすさにあります。従来のオフィスワークでは、不便が生じる場合でも基本的にはオフィス内で働くしかありませんでした。しかし、ABWであればそうした制約はありません。
業務内容や目的に応じて最適な場所を選択して働けるため、不便さを感じながら働く必要がなくなる可能性も高まるでしょう。その結果、従業員満足度の向上が期待できます。
雇用・育成コストの削減
多様な働き方の実現、業務内容に応じた最適な環境の選択などにより従業員満足度が向上すれば、離職率の低減が可能です。また、常に社員が働きやすい環境の提供が実現すれば、優秀な人材の確保もしやすくなるでしょう。その結果、雇用にかけるコストや新たに社員を育成するコストの削減も期待できます。
業務効率化・生産性向上の実現
例えば、オフィスでミーティングをしたいと思っても、スペースが空いていなければ断念しなければなりません。同様に一人で集中して働きたいような業務であっても、一人用のスペースがなければ、効率が落ちてしまうでしょう。オフィススペースは有限のため、業務がかち合えばどうしてもそうしたケースは生まれてしまいます。
しかし、ABWであればオフィスの外もすべてワークスペースとなるため、業務がかち合ったとしても、滞るリスクの低減が可能です。近くのカフェやレンタルルームなどの活用により効率化が進み、ひいては生産性の向上にもつながるでしょう。
オフィススペースの有効的な活用
社員間のコミュニケーション活性化を目的とし、ミーティングスペースを増やしたいと思っても、オフィススペースによっては難しいケースが少なくありません。そうした場合であっても、ABWであればレンタルルームと契約し、集中して働きたい社員はレンタルルームを活用するようにすれば、オフィススペースに余裕が生まれます。オフィス外をうまく活用することで、限られたオフィススペースを有効に活用できるのもABWの大きなメリットです。
ABW導入時に注意すべきデメリット
多くのメリットを持つABWですが、次のようなデメリットもあり、導入時には注意しなくてはなりません。
管理コストの増大
ABWでは、オフィスワークであってもオフィス以外で働く社員がいるため、フリーアドレス以上に管理コストがかかります。解決策としては、グループウェアやビジネスチャットの活用が挙げられますが、成果主義の導入も効果的です。そのため、ABW導入時には就業規則や評価制度の見直し・改善も行うことをおすすめします。
セキュリティリスクの増大
オフィス外での業務も日常的になるABWにおいては、セキュリティリスクの増大は大きなデメリットです。カフェや電車、タクシーで資料やスマートフォン、パソコンなどを紛失・盗難されてしまう可能性も高まります。
解決策としては、社員に対するセキュリティ教育の徹底だけではなく、デバイスは会社側が用意し、管理システムを活用することが挙げられます。万が一の際には遠隔でデータ削除やロックができるようにし、データを守るようにしましょう。
ABWを導入しやすい職種や具体的な導入例
ABWは職種によって適している場合と、適さない場合があります。自社に適しているワークスタイルなのか、見極めることがポイントです。実際にどのように導入されているのか事例をご紹介します。
ABWを導入しやすい職種とは
ABWを導入しやすい職種とは、営業や企画のように人の出入りが多い職種です。座席の使用率が低く、日中は常に空席があるようならABWの導入に向いています。一方、総務や経理、研究・開発系など自席を使用する時間が長い、あるいは仕事内容として常に在籍を求められる職種への導入はハードルが高いと言えます。総務や経理は、企業内でのデスクワークや連絡業務が多く、在席率も高い職種です。研究・開発系の職種は据え置き型の高性能なパソコンや実験器具を必要とする場合も多く、自席でなければできない仕事もあるでしょう。ABWの導入を検討する場合は、職種ごとの導入までの障壁を事前に調べておくことが重要です。
海外企業で拡大中! ABWの導入例
ABWの考え方はオランダから始まり、オランダ以外だとオーストラリアを中心に広まっています。ナショナルオーストラリアバンクでは、本社でABWを導入し、各社員の自席を設けていません。社員は必要があるときだけ来社し、ほかは自宅やカフェなどの好きな場所で仕事をしています。このようなワークスタイルは、企業側にとっては座席確保のためにかかるオフィスへの投資コストが抑えられることがメリットです。労働者側はプライベートな時間と両立しやすくなります。
同じくオーストラリアの不動産会社グッドマンも、ABWを導入している企業です。導入した当時、すでに多くの企業がABWを採り入れていました。実際に導入している企業の事例を調査し、導入を決定。当初は社員の自席をなくすことへの不安もあったものの、導入後の調査で社員の満足度が向上していることがわかりました。座席が固定されていないということは、マネージャーは部下と常にコミュニケーションをとりながら、どこで何をしているのかを把握する必要が出てきます。結果的に、社員同士のコミュニケーションも増え、人材の確保や離職率の低下にもつながったのです。
国内でのABW導入事例
文具・事務用品カテゴリーを中心とした製品・サービスのマーケティング・企画・販売をするコーラス(以下同社)。同社は、「社会と共に進歩する」を企業目的としており、「皆が気持ちよく存分に働ける」ためのオフィスを実現するためにABWの導入を進めました。
同社では、「Safer and Cozy Place(より安全で、創造的なイマジネーションを育む快適空間)」を目指し、背面対向型レイアウトを採用。必要に応じて振り向けばすぐにその場でミーティングを行えるようになっています。また、オフィス内に多彩なセッティングを用意し、用途に応じて働ける場所を自由に選択できるようにしました。
コーラス様のABW導入事例は『コーラス株式会社 様』にて写真付きで紹介していますので、ご覧ください。

まずは職場の状況を調査! ABWを実施する方法
ABWを導入するためには、まずオフィスの状況を調査することから始めます。そのうえで、導入が可能なのか判断します。実際に導入が決まったら、ABWを視野に入れたレイアウトを考えていきましょう。
オフィスの状況を調査する
実際に働く従業員の意見を聞きながら、オフィスの使いやすさや座席の使用時間などを調査します。普段、不便に感じていることはないか、業務上必要な設備やスペースはないか、アンケートを実施します。
座席の使用時間が短い社員が多い場合は、ABWを導入しやすいと言えるでしょう。
ABWの導入が適切なのか判断する
調査結果をもとに、ABWの導入が適切なのか判断します。さらに、調査結果から、どのような設備やスペースが必要なのか洗い出していきます。さまざまな業務に対応できるように、デスクのほか、集中スペースやソファ、カフェスペースなどの設置も検討してみましょう。また、どのくらいの設備が必要なのか、人数や業務割合によって最適な数を割り出す必要があります。
ABWに最適なレイアウトを考える
実際に導入が決まったら、ABWの実施に必要な個室スペースや作業スペース、ミーティングスペースなどの設置を考えます。使いやすさやコミュニケーションのしやすさも考慮し、レイアウトを決めていきましょう。また、仕事中も移動できるように、Wi-Fi通信やノートパソコン、スマートフォンなどのモバイル機器も準備する必要があります。
ABWはフリーアドレスが進化した働き方
ABWは、社員が自由に働く場所を選べるワークスタイルです。オフィス内に限らず、集中ブースやカフェ、自宅など、仕事に最適な環境を選ぶことができます。フリーアドレスから、さらに進化した働き方といえるでしょう。ABWを導入するためには、まずオフィスの現状を把握し、本当に導入が可能なのか検討することが重要です。ABWがうまく機能すれば、仕事の効率が上がり、従業員の満足度もアップします。また、オフィス空間を効率的に利用できるというメリットもあります。
フリーアドレスデスクの座席管理システムSuwary(スワリー)では、オフィスのデスクをIoT化して座席の予約・履歴管理、在席確認・利用データ分析ができます。
フリーアドレスデスクの座席管理システム
オフィスのデスクをIoT化して座席の予約・履歴管理、在席確認・利用データ分析ができる
最新クラウドサービス Suwary(スワリー)。
【お役立ち資料】
フリーアドレス導入前のポイントを説明 フリーアドレス導入ガイド
在宅勤務の広がりなどで働く場が広がり、オフィスのフリーアドレス導入も増えています。フリーアドレスを導入する際、メリット、デメリットを把握した上でどのような点に注意したらよいのか、ポイントについてご説明します。 フリーアドレスの導入を検討されている方はぜひご覧ください。
