新型コロナウイルス感染拡大により、取引先やお客様への対応の場も対面からWebへと変化しつつあります。その影響もあって、以前は多くのオフィスで見られた応接室を無くしてしまう企業も少なくありません。しかし、応接室はエントランスと並び企業の顔ともいえる場であるため、ある程度の規模に成長した企業であれば、ブランディングのひとつとしての設置もおすすめです。今回は、応接室の用途、会議室との違いから、レイアウトのポイントや用途別家具の選定方法までをお伝えします。
応接室の使用目的
応接室は、大切なお客様を迎える空間です。
普段の接客から重要な商談まで行われるため、事業の成功のためにも目的に見合った空間を構築しましょう。
ここでは、応接室の代表的な使用目的を2つご紹介します。
お客様をおもてなしする場として
応接室は、外部からの大切なお客様を迎えるための場所として使用されます。商談や打ち合わせを行う場であり、企業の第一印象を左右するため、上質で落ち着いた空間が求められます。
お客様がリラックスできるようなソファや程よい距離感のテーブルを備えることで、コミュニケーションをとりやすい環境を整えましょう。
会議室として兼用したい
近年ではテレワークが普及し、オフィス内で働くスタッフの数が減ったことから、オフィス面積を圧縮する移転事例もあります。
同時に、限られたオフィススペースを効率的に活用するために、応接室を会議室としても利用するケースが増えています。
会議室と兼用する場合は、応接室としての落ち着きと会議のしやすい機能性の両立が重要です。
使用シーンに合わせてテーブルのサイズや配置を調整し、必要に応じてプロジェクターなどの設備も設置すると、幅広い用途に対応できる多機能な空間が生まれます。
応接室と会議室は何が違うか
応接室と会議室では、用途が異なります。
応接室は外部のゲストを迎える場所であるため、座り心地の良いソファやクラシックなテーブルが設置されます。
一方の会議室は、社内外を問わずミーティングに用いられる部屋で、会議に集中できるように基本的にはシンプルなインテリアで構成されます。
応接室の基本的なレイアウトとは
応接室のレイアウトにおいて、上座と下座の配置はビジネスマナーとして押さえる必要があります。
一般的に上座は入り口から最も遠い位置とされ、目上の方やお客様に座ってもらいます。
おもてなしする側は下座に位置し、スムーズな会話や必要なものの手配ができるよう配慮します。
また人数が多くなる場合は、中央席を上座とするケースもあります。
この場合においても、おもてなししやすいように入り口側に下座を設置します。
応接室のレイアウトを考える際のポイント
冒頭でも触れたように応接室はエントランスと並んで会社の顔となる場です。そのため、必要以上に華美にする必要はありませんが、ブランドイメージを向上させるレイアウトにするための工夫は欠かせません。特に重要なポイントとして挙げられるのは次のような点です。
応接室はどのくらいの広さの部屋にするか
応接室の広さは、設置するソファやテーブルのサイズ、利用する人数を想定して計画しましょう。
通路幅や扉の開閉スペースも考慮し、実際に利用する際に窮屈さがないように、移動動線を含めて計算します。12㎡(3000mm×4000mm)の部屋であれば、ゆったり座れるタイプのソファを使用すると接客人数は4名程度が想定されます。
コンパクトタイプのソファであれば6名まで対応可能ですが、多少窮屈になるかもしれません。
またソファとテーブルの間は通路幅400mm以上を確保し、上座下座の配置にも配慮しましょう。
応接室はスムーズに移動できる場所に設置する
来客スペースはエントランスの近くに設置するのが基本ですが、あまり入り口に近すぎるとほかのお客様や社員の出入りが多くなり、くつろいでもらいにくくなります。そのため、入り口から適度に離れた場所に設置するのが理想です。
ただし、応接室につながる通路はできるだけほかの社員が通らないようにすること、可能な限り広めの通路にし、スムーズに移動できるようにすることが重要です。
会社からのメッセージが伝わるレイアウトにする
応接室は企業の顔であり、ブランディングを行う場でもあります。そのため、会議室や商談室のようなデスクとチェアだけの簡素なレイアウトではなく、会社からのメッセージが伝わるレイアウトになるよう工夫しましょう。
たとえば、創業時から現在までの社屋の写真を展示する、調度品を設置するといったアイデアもおすすめです。
また、大きなガラス窓を設置する、質のいい家具、照明を設置するなど、あえてシンプルなレイアウトにしつつ、センスを伝えるのもよいでしょう。
さらに、黒や茶を基調とした家具やほかのフロアとは異なるカーペットで重厚感を演出する方法もあります。
押し付けすぎない程度にメッセージを込め、オリジナリティを出したレイアウトにすることで、お客様に良い印象を持ってもらえるでしょう。
おもてなしの精神を意識し、くつろげる空間を提供する
応接室を設置する際の最も重要なポイントである「おもてなしの精神」を意識して、くつろげる空間を提供しましょう。ポイントはひとり当たりのスペースです。あまり狭すぎると窮屈さを感じてしまい、くつろぐことはできません。
一般的な執務室でのひとり当たりのスペースは約3坪といわれているため、ひとり当たり5坪以上を確保すればかなりくつろげるでしょう。ただし、これはひとり掛けの椅子を設置する場合で、2~3人掛けのソファを設置する場合は、ひとり当たりのスペースはソファの大きさに合わせます。
応接室と会議室を兼ねる際の注意点
オフィスの広さによっては、応接室と会議室の機能を一つのエリアにまとめることも考えられます。ここでは、応接室と会議室を兼用する際の注意点について解説します。
必要なもののみ置くようにする
会議室と応接室を兼用する場合、来客の目に入ることを想定し、必要なものだけを置くようにしましょう。
会議用の備品を置きっぱなしにすると、部屋全体が雑然とした印象になり、応接室としてゲストを迎える空間にはふさわしくありません。
ホワイトボードやプロジェクターなどの会議用でよく使う備品は、キャスター付きのタイプを採用し、利用する時だけ別の場所から持ってくるなどの工夫が必要です。
急な来客も想定されるため、いつでも応接室として使用できるようにすっきりした空間を保つことが大切です。
1人あたりに必要なスペースを把握する
1人あたりに必要なスペースを適切に設定することで、会議室を応接室としても利用可能です。
会議室では活発な議論を行うためにあえて狭めに設計することもありますが、応接室としては圧迫感があり居心地が悪くなります。
最低でも1人あたりのスペースとして幅600〜700mm、奥行き450〜600mm程度を確保したいところです。
圧迫感を軽減したい場合には、さらに100〜200mm程度広めに設定するとよいでしょう。
適切なスペースを確保することで、快適な環境を提供し、会議や応接のスムーズな進行が可能です。
応接室の家具の選び方
ここでは、応接室の家具を選ぶ際のポイントについて解説します。
応接室のサイズを考える
部屋の広さやドアの大きさと、家具の寸法を計測して選定します。
部屋の大きさに対して大きすぎる家具だと圧迫感が出て、家具が小さすぎるとくつろげない雰囲気になってしまいます。
部屋のサイズに対応した大きさの家具を合わせることで、快適で落ち着いた空間を作り出せます。
また家具を配置する際には、人がスムーズに移動できる動線も確保するようにしましょう。
使う人数や目的を考える
使用する人数や、目的を想定して家具を選びましょう。
一般的には2~3人用ソファ1脚、一人掛けソファ2脚、ローテーブル1台という構成です。
少人数での商談や接客がメインなら、この構成で十分でしょう。
ただし3人以上の来訪や会議室として使用するなら、高さのある会議用テーブルや椅子の方が使いやすいことがあります。
素材は予算から考える
応接室の雰囲気に合わせて、予算内で家具の選定を行いましょう。
代表的なソファの素材には、ファブリック製、合成皮革、本革があります。
本革は高価ですが高級感があり、長期の使用にも対応します。
合成皮革は耐久力こそ本革に及ばないものの、手入れがしやすく安価でカラーバリエーションも豊富です。
ファブリック製の素材は通気性が良いため、長時間座っていても蒸れにくく、優しい印象の空間になります。
応接室のレイアウト事例10選
ここからは、実際の企業が採用した応接室の設計事例を写真付きで紹介します。
自社の目的や理想と照らし合わせて、イメージと近いものを参考にしてください。
トランコム株式会社 東京オフィス
トランコム株式会社東京オフィスでは、東京駅前の好立地を活かし応接室から東京の街並みを望めるようになっています。
また多くの人数にも対応できるように、ファブリック製の座り心地の良いベンチや、ミーティング用のチェアも設置されています。
テレビモニターも設置されており、応接室でありながら顧客との会議にも使えるような空間を構築しています。
さらに、ちょっとした打ち合わせならエントランスに設置されたラウンジでも対応可能です。
株式会社セゾンファンデックス 大阪支店
株式会社セゾンファンデックス大阪支店は、居心地の良さに焦点を当ててデザインされたオフィスです。ゲストを迎えるために、エントランスにはタッチパネル型の受付システムを設置。待合スペースにはソファが置かれ、ゆったりと過ごせるようになっています。応接室は人数に合わせて大小二つのフロアを用意しており、プレゼンやミーティングなどさまざまなシーンに対応可能です。
株式会社AIT
株式会社AITの応接室は会議室と同じエリアに設けられ、シンプルな動線を実現しています。動線に面する壁面の一部をシート張りにすることで、オフィス空間全体にメリハリを持たせ活気ある空間を実現。応接室の内部のスチールパーテーションにもシート張りが採用されているものの、外部とカラーを変えることで与える印象をコントロールしています。既存の家具を使用することで、かつてのオフィスとの親和性を持たせ、ゲストに安心を与える工夫も取り入れられています。
株式会社ICUS
株式会社ICUSの応接室は背の高い家具を設置しており、大人数や取引先との会議にも対応可能です。
無駄なもののないシンプルな空間で、見晴らしの良い窓側のエリアを応接室にすることで、おもてなしの心を表現しています。
また別のエリアに30名弱の大人数に対応する会議室も設置しており、セミナーなど幅広いシーンへの活用が想定されています。
医療法人A
医療法人Aは風格のある和モダンのエッセンスを取り入れ、重厚感あるオフィスを構築しています。ゲストを迎えるレセプションにはソファとライブラリーを置き、ゆったりと過ごせる雰囲気を演出することでホスピタリティの高さを表現。応接会議室は眺めの良い窓側に配置され、廊下柄にはフィルムを貼ることでプライバシーにも配慮しています。レセプションエリアから応接室まで真っ直ぐに進めるゆとりある動線も、ゲストに安心を与える要素の一つです。
トーエイ物流株式会社
トーエイ物流株式会社は、埼玉県久喜市に本社を構える総合物流サービス企業です。
創業から60年を迎えた際に新社屋を建設し、地域に貢献する企業としての役割を意識しつつ、従業員が働きやすいオフィス環境を整えました。
エントランスは優しい木目調の吹き抜けデザインで、外部からも見渡せる開放的な空間となっています。
また応接室には上質な家具が備えられ、大切な顧客をもてなすためのホスピタリティに配慮された空間となっており、地域とのつながりを目指す同社の理念を表しています。
ヒビノ株式会社
長年音響と映像技術を専門としてきたヒビノ株式会社は、グループ企業のシナジーを活かすため、点在していた事業拠点を一つのオフィスに集約しました。
移転にあたっては若手社員の意見を取り入れ、「憧れ」をテーマに社員同士の交流やブランディング効果を重視した空間が整備されています。
応接室は黒を基調とした落ち着いたデザインで、モニターが設置され商談や打ち合わせにも最適な環境です。
リラックスした空間で、訪問者と円滑なやりとりが可能です。
株式会社クライム 群馬事業所
株式会社クライムの群馬事業所は、ITエンジニアの働きやすさを追求したオフィス設計がされています。
スケルトン渡しの条件を活かし、高い天井をそのまま利用して開放感のある空間を実現。
テレワークが早期から実施されていることもあり、フリーアドレスデスクを採用し、自由な働き方を支援しています。
社長応接室はモダンな家具でまとめられており、商談にも対応可能なデザインです。
また待合や打ち合わせスペースも兼ねており、ビジネス環境としての機能性を確保しています。
YKK株式会社 ファスニング事業本部 ジャパンカンパニー
YKK株式会社のファスニング事業本部ジャパンカンパニーは、2019年の東京移転にともない、社内外の交流が活発になるよう設計されました。
オープンカフェ風のラウンジエリアを中心に、製品をショーウィンドウのように展示するスペースが配置されています。
ラウンジエリアに隣接した応接室は、間仕切り「KOUSHI」に磨りガラスをはめ込んでおり、ラウンジエリアから見るとショップのようにも見えます。
また外の光を取り込む設計がされており、室内にいても閉塞感を感じません。応接室全体が明るく開放感のある空間になっています。
株式会社科学情報システムズ
株式会社科学情報システムズは、科学技術に関する情報提供とITサポートを行う企業で、従業員が作業に集中しやすい静かなオフィス環境を整えています。
新しいオフィスでは、効率的な動線を考慮した執務スペースやリラックスできる休憩スペースが設置され、業務の生産性向上に取り組みました。
応接室は、科学技術に携わる企業としての信頼感を与えるシンプルかつ洗練されたデザインで、ガラス面には同社のイメージを伝えるグラフィックシートが施されています。
応接室には「おもてなし」を重視したレイアウト、家具の選択が重要
応接室は、重要なお客様のおもてなしを目的として、ゆったりとくつろいだ雰囲気のなかでコミュニケーションを取る場所です。そのため、特に専用の応接室を設置する場合は、企業のブランドイメージの向上も意識したレイアウト、家具の選択が求められます。といっても、有名なブランドや、単純に価格の高いものを選択すればよいわけではなく、会社のメッセージも込めつつ、いかにくつろげる空間を演出できるかを重視することが欠かせません。
そこでおすすめなのが、オフィス家具を専門に扱うメーカーの活用です。家具の選定を依頼することが可能なだけではなく、設計やレイアウトの段階から相談でき、自社にとって最適な応接室の設置が実現しやすくなります。
PLUSはこれまでにも多くのオフィス設計を手掛けているため、応接室の設置に関しても適切な支援が可能です。オフィスリニューアルや移転で応接室の設置を検討されている際は、ぜひ過去の事例をご覧になったうえで、お気軽にご相談ください。
また、社長室を設置する際のポイントについては、『社長室の役割とは?設置のメリットやレイアウトのポイントを解説』をご覧ください。
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