満員電車の混雑緩和、子育てや介護で退職せざるを得ない従業員の雇用維持などの観点から、これまでにもリモートワークを導入している企業は見受けられました。そして、新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛要請により、その数は一気に増加しています。しかし、導入までの準備期間が少ないことから、多くの企業でさまざまな混乱をきたし、リモートワークのデメリットばかりに目がいってしまったケースもあるのではないでしょうか? 本来リモートワークには多くのメリットがあり、しっかりと準備をすればデメリットを大きく上回る成果を期待できます。そこで、今回はリモートワークの概要、メリット・デメリットを見つつ、導入や継続にあたって特に人事総務部が気をつけるべきポイントについてお伝えします。
新型コロナウイルス感染拡大の影響により注目を集めた「リモートワーク」とは?
そもそも「リモートワーク」とは、リモート(遠隔・遠い)とワーク(働く)を合わせた造語で、オフィスではない離れた場所で働くことを意味するものです。今回、新型コロナウイルスの影響で外出自粛が求められるようになって注目を集めた働き方ですが、本来オフィス以外で働くスタイルはすべてリモートワークと呼びます。したがって、外出先でスマートフォン、タブレットを使って働くスタイルや、サテライトオフィスで働くスタイルなどもリモートワークです。
2020年5月に東京商工リサーチが公開した、第4回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査によると、新型コロナウイルスの発生による企業活動への影響について、「現時点ですでに影響が出ている」と回答した企業は75.91%。そして「現時点で影響は出ていないが、今後、影響が出る可能性がある」と回答した企業が22.5%と、全体の約98.4%が企業活動に影響が出る、もしくは出る可能性があると回答しています。
そして、「新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、在宅勤務・リモートワークを実施したか」との問いには、55.96%が実施したと回答。前回(4月10日公開)の調査時は25.3%であったため、実に1か月で約30ポイントも増加しています。ただ、大企業での実施率は83.3%ですが、中小企業では50.9%と、企業規模で見るとまだまだ大きな差があるようです。
リモートワーク導入で得られるメリット
では、具体的にリモートワーク導入で得られるメリットについて見ていきます。
優秀な人材の離職防止
多様な働き方が実現すれば、これまでは子育てや介護などで退職せざるをえなかった社員の離職防止になり、優秀な人材を手放す必要がなくなります。また、離職が減れば、採用や教育にかけるコストの削減にもつながります。
業務効率化
ウェブ会議は、対面の会議とは異なり、ダラダラと打ち合わせをするのに向いていません。そのため、会議時間の短縮につながります。また、オフィスではついつい話しかける場面でも、リモートワークでは連絡ツールを使うことになります。業務を中断する回数が減り、業務効率が上がるでしょう。
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雇用の幅が広がる
従来の採用活動は主に通勤圏内の人材をターゲットとしていましたが、リモートワークであれば、オフィスに通わなくてもよいため、通勤圏内にこだわる必要がなくなります。これにより、全国から優秀な人材を採用できる可能性が高まり、雇用の幅が広がります。
採用活動のアピールポイントになる
働く側の選択肢が増え、柔軟な働き方が可能になれば、企業のブランドイメージが向上するでしょう。フレキシブルワークができる企業はまだ多くありません。先んじて制度を整えることで、採用活動時の大きなアピールポイントにすることができます。
BCP(事業継続計画)対策が進む
リモートワークを実践するには、資料やデータのデジタル化が欠かせません。また、PCの持ち出しにあたっての情報セキュリティ強化も必要です。そのため、リモートワークを実践すれば、おのずと紙資料のデジタル化や情報管理の強化が進み、結果としてBCP対策にもつながります。
社員のプライベートが充実する
社員はこれまで通勤にかけてきた時間を自己研鑽やプライベートの時間に充てられるようになります。会社としても社員の努力を評価できる制度を用意することで、モチベーションアップを図ることもできるでしょう。メリハリのある働き方を実現する1つの手法といえます。
コスト削減
社員がオフィスに通勤するための交通費が削減できます。オフィスに通勤する社員の数が減れば、オフィス自体を縮小することも検討できるでしょう。また、リモートワークによるペーパーレス化は、印刷や資料の保管スペースといったコストを下げることにつながります。
リモートワーク導入により発生するデメリット
リモートワーク導入によるさまざまなメリットを見ましたが、今回、新型コロナウイルスの影響で実際にリモートワークを導入し、デメリットを感じた部分もあったのではないでしょうか。ここではそのなかでも主なものを見てみましょう。
コミュニケーションが取りにくくなる
オフィスにいれば、周りに社員がいるため、ミーティングをするまでもないちょっとした相談も可能です。しかし、リモートワークではそうした環境にないため、コミュニケーションが取りにくくなります。
業務内容によってはリモートワークができない部署もある
リモートワークには向いている業務と向かない業務があります。基本的にデスクワークで一人でも可能な業務はリモートワークに向いています。しかし、製造部門、接客・販売部門などどうしてもオフィスや現場でなければできない業務もあり、足並みをそろえるのが困難です。
ペーパーレス化や自宅の通信環境整備など、移行にあたってのコストが発生する
メリットでも触れましたが、リモートワークを円滑に進めるにはペーパーレス化が欠かせません。また、リモートワークを行うには、パソコンやルーターなど自宅で作業をするための機器類も必須です。これらをすべて準備し、環境を整備するには相応のコストがかかります。
自宅でのセキュリティ管理が個人任せになってしまう
オフィスであれば会社としてセキュリティ管理を行えますが、リモートワークではすべて個人任せになってしまうため、情報漏えいやデータ消失といったリスクが生じます。
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リモートワーク導入によって生じる人事総務部の課題点
リモートワーク導入には、メリットとデメリットの両面があるのをご理解いただけたと思います。次に、リモートワークの導入で特に人事総務部が抱えてしまいがちな課題点について見てみましょう。
労務管理が難しくなる
リモートワークはほとんどの場合、自宅作業になるため、社員はプライベートと業務の区分けが難しくなります。また、労務管理をする側としても、オフィスのようにいつ出勤して、いつ退勤したかといった明確な労働時間のカウントができなくなり、管理が困難になります。
オフィスの設備、居室の維持管理
リモートワークが進めば、当然ながらオフィスに出社する社員の数が減少します。これによりオフィス縮小を行えば家賃低減が実現しますが、半面、すぐにオフィス縮小ができない場合、居室の維持管理が難しくなります。また、OA機器やオフィス家具などオフィス設備の売却、維持管理も計画性を持って行わないと大きなロスになる場合があります。
新たな就業規則、評価制度の改善が必要になる
従来の就業規則、評価制度は多くの場合、オフィスで働くことを前提として制定されています。しかし、リモートワークを導入する場合、それに合わせて改善をしないと、リモート、オフィスのどちらで働くにしても不公平感が出てしまうリスクがあります。
社員の健康管理に今まで以上に気を配る必要がある
リモートワークになると、通勤や外出の機会が大幅に減少します。基本的にリモートワークの多くはデスクワークのため、身体を動かす必要がなくなり、運動不足による健康被害リスクが増大します。環境が変わることで生まれる健康への影響を考慮し、社員に注意喚起をするなど対応が必要でしょう。
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リモートワーク導入をスムーズに行うためのポイント
ここまで、リモートワークのメリットやデメリット、そして導入に際して人事総務部が解決すべき課題について見てきました。そこで、リモートワーク導入をスムーズに行うために人事総務部としてやるべきことを見ていきましょう。
リモートワークとオフィスワークの二者択一で考えない
リモートワークには向いている業務と向いていない業務があります。そのため、全社一律でリモートワークを導入する、またはオフィスワークを継続するという選択肢だけでは、オフィスワークを選びがちです。また、リモートワークのデメリットに意識が集中してしまう可能性もあるでしょう。各部署や業務内容に応じて、リモートワークとオフィスワークの使い分けを考えることが、スムーズな導入には欠かせません。
オフィスの空いたスペースを有効活用する
リモートワークによるオフィス縮小は確かに家賃の低減というメリットがあります。しかし、上述したようにオフィスワークとリモートワークを並行して行っていくのであれば、オフィスの空いたスペースをコミュニティスペースや集中ルームにするのがおすすめです。快適なオフィスワークを可能にし、業務効率や生産性の向上が期待できます。
スモールスタートでリモートワークを導入する
一部の業務はリモートワークでも可能なため、まずはスモールスタートでリモートワークを実践し、そこで得た知見を基に就業規則、評価制度の改善を行います。労務管理やコミュニケーション量、健康管理など、リモートワーク導入にあたっての懸念事項について注視するとよいでしょう。トライアルという位置づけで実施することで、社員へのヒアリングも可能です。それにより、デメリットを極力うまないリモートワークの全社運用を実現しやすくなります。
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リモートによる採用活動のフォーマットを確立する
今後を見据えて行っておくべきなのが、通常業務のリモート化を進めていくのと同時に採用活動もリモートで行っていけるフォーマットの確立です。今年度(2020年)はもちろん、今後しばらくは大規模な説明会や面接といった採用活動は控えなくてはならない可能性があります。そのため、早い段階で、リモートで採用に関するさまざまな活動ができる環境を整えておけば、人材確保につながるでしょう。
まずはトライアルで導入し、状況を見ながら拡大していくことがポイント
今回、新型コロナウイルスの感染拡大により、急遽、リモートワークを導入した企業も多いのではないでしょうか。しかし、本来、リモートワークを導入するには、ペーパーレス化やリモートワーク用の就業規則の制定、労務管理の整備など事前準備が必要です。そのため、急遽導入となった今回はデメリットばかりが目につき、緊急事態宣言の解除に合わせリモートワークをやめてしまった企業も少なくありません。
ただ、リモートワークは事前準備さえ怠らなければメリットも多く、さまざまな利益を生み出します。さらに、今後、新型コロナウイルスの第2波、第3波到来の可能性も考えると、現時点で改めて準備を行い、リモートワークのデメリットを解消しておけば、多くのメリットの享受が可能でしょう。
ポイントは、トライアルで導入できそうな部署からスモールスタートをして、改善点や現場の声を拾い上げつつ、制度化していくのが理想です。その際、人事総務部自身が実践すると、よりメリットや問題点を浮き彫りにすることができ、制度化する際にその経験を活かせます。まずは企業全体の管理を行う自分たちから始めれば、課題点の改善も行いやすく、ほかの部署へ広げやすくなるでしょう。
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