多様な働き方を実現するひとつの方法として、多くの企業が取り入れているテレワーク。しかし、導入したものの上手くいかず元のオフィスワークに戻してしまう企業も少なくありません。その大きな理由となるのが、コミュニケーション不足です。なぜ、テレワークはコミュニケーション不足を引き起こしてしまうのでしょうか。今回は、テレワークでコミュニケーションが不足する理由と改善ポイントについて解説します。
テレワークでコミュニケーションが不足してしまう理由
テレワークでのコミュニケーションはなぜ上手くいかないのか、その理由のひとつとしてオンラインでのコミュニケーションの難しさが挙げられます。
2022年3月にHR総研が公開した、「社内コミュニケーションに関するアンケート2022」。このなかで、社内コミュニケーションを阻害している要因については、「対面コミュニケーションの減少」は35%で、全体の3番目です。
また、コミュニケーションは対面とオンラインのどちらがコミュニケーションを取りやすいかとの問いに対し、対面が良い派は69%(「やや対面が良い」、「圧倒的に対面が良い」という回答を合わせた割合)なのに対し、オンラインと回答したのはわずか5%にすぎません。
しかも、前年の同じ調査では、対面が良い派は66%でした。つまり、オンラインでの対面に多少は慣れてきているにもかかわらず、オンラインよりも対面のほうが、コミュニケーションが取りやすいという回答が増えているのです。
出典:社内コミュニケーションに関するアンケート2022|HR総研
この結果を見ても、オンラインでのコミュニケーションがいかに難しいかがわかるのではないでしょうか?
また、同調査では、「コミュニケーションしやすい形式」の理由として、次のような回答が寄せられています(「対面が良い派」の意見、一部抜粋)。
- 互いの状況がつかみ易い
- 細かいニュアンスなどもわかりやすい
- 気軽な声掛けをするにもオンライン場合は通信呼び出しが必要なため遠慮がちになる
- ちょっとしたことを確認したり、伝えたりは対面の方が行いやすいから
お互いにオフィスにいれば、些細なことでも気軽に話すことができるのに加え、チャットやメールでのやり取りに比べてスムーズなコミュニケーションが可能です。そのため、どうしてもオンラインでのコミュニケーションについては、「手間がかかり、意思疎通が難しい」といったイメージを持ってしまうのではないでしょうか?
職場内のコミュニケーション不足については、『職場内のコミュニケーションが不足する理由は?原因と対策を考えよう』の記事もご覧ください。
テレワークでコミュニケーションを増やす方法とポイント
対面に比べ、コミュニケーションが不足しがちになってしまうテレワーク。では、どのような改善を行えばコミュニケーションを増やせるのでしょう。ここでは主な改善方法とポイントを解説します。
多様なツールの導入と使い分け
テレワークを行っている社員とのコミュニケーションを活性化させるには、多様なコミュニケーションツールの導入が欠かせません。メール以外にも、チャットツール、グループウェア、Web会議ツールなどが挙げられます。
また、用途に応じてそれぞれのツールを使い分けることも重要です。たとえば、業務報告や指示はメール、ちょっとした確認や質問はチャット、部署やチーム間での情報共有はグループウェア、ミーティングはWeb会議ツール、などと使い分けます。
対面でのコミュニケーションは、重要な指示や報告を口頭で行うケースも珍しくありません。オンラインであれば、さまざまなツールを使い互いの言質を残しておけるため、トラブルを未然に防げるというメリットにもつながるでしょう。以下、主なコミュニケーションツールを紹介します。
Web会議ツール
インターネット回線を活用し、パソコンやスマートフォン、タブレットなどのブラウザ、アプリで会議を行うツール。社内会議、ミーティングのほか、社外での打ち合わせや商談も可能です。主なツールとしては、ZoomやGoogle Meet、Microsoft Teamsなどが挙げられます。
チャットツール
社内間での連絡事項の伝達を主とし、テキストベースでのやり取りが行えるツール。スマートフォンでも利用できるため、電車での移動時でも気軽に使用可能です。主なツールとしては、Chatwork、LINE WORKSなどが挙げられます。
グループウェア
部署やチーム内での情報共通や連絡手段のほか、ちょっとした雑談にも使えるツール。業務やプロジェクトによってグループを作成できるため、進捗管理にも利用可能です。主なツールとしては、Zoho Connect、Kintoneなどが挙げられます。
ナレッジベース
社員が得た知見や情報を書き込み蓄積していけるツール。データベース型、グループウェア型、ヘルプデスク型、社内Wiki型など多様で、業務マニュアルや接客マニュアルとしても利用可能です。主なツールとしては、Google Looker Studio、NotePMなどが挙げられます。
オンラインホワイトボード
Web会議やミーティングで利用できるオンライン上のホワイトボードツール。ZoomのようにWeb会議ツールのひとつの機能として搭載されている場合もあります。主なツールとしては、Google Jamboard、Microsoft Whiteboardなどです。
社内Wiki
社内の情報を体系的にまとめられるツール。ナレッジベースやグループウェアに機能として搭載されている場合もあります。基本的にはコミュニケーションツールではなく、情報共有に特化したツールです。主なツールとしては、Scrapbox、Notionなどが挙げられます。
コミュニケーションルールの策定
ツールのみを導入して後は自由にといっても、なかなかコミュニケーション不足は解消できません。そこで、コミュニケーションを活性化させるためのルールを策定します。
具体的には次のようなルールが考えられます。
- グループウェアを使って雑談専用のグループをつくり、一定時間は自由に雑談をできるようにする
- 社員同士でメール、チャットを使ってやり取りする場合、「お疲れ様です」や「よろしくお願いいたします」などの定型文を不要にする
- 1週間もしくは2週間に1回はオフィスに集まり情報共有をする日をつくる
- テレワークを行っている社員が出社した際には、朝礼や夕礼、ランチミーティングなど対面でコミュニケーションを取れる施策を実施する
- 出社が難しい社員がいる場合は、部署をまたいだオンラインランチ会を開催する
- チャットで返信するまでもない内容のやり取りでもリアクションボタンを活用して閲覧していることは相手に伝える
- 始業時に当日の予定、終業時に日報を必ず提出する
コミュニケーションが生まれやすいオフィスについては、「情報共有の重要性とは?コミュニケーションが生まれやすいオフィス」の記事をご覧ください。
実際にテレワークでのコミュニケーション不足を解消させた事例
実際の事例から、テレワークで不足しがちなコミュニケーションをどのような施策で解消したかについて紹介します。
株式会社アカウティングプロ
学術研究・専門・技術書サービス業を行っている株式会社アカウティングプロでは、テレワークを行ううえで、チャットのみでは真意が伝わりにくく、言語化できる内容しか伝わらないとして、業務中は原則としてZOOMの活用を義務づけました。常にZOOMをつないでおくことで、オフィスにいるのと変わらない環境でのコミュニケーションを可能にしています。
参照:令和元年度テレワーク先駆者百選取り組み事例|総務省
エヌ・ティ・ティ・データ先端技術株式会社
主に情報・通信システムおよび関連ソフトウェア並びにハードウェアの設計、開発、開発管理、設置、販売、保守、運用などを行っているエヌ・ティ・ティ・データ先端技術株式会社(以下同社)。同社では、Web会議ソフトやコラボレーションツールのアカウントを全社員に付与し、社員同士が気軽にコミュニケーション、情報共有ができる環境を整備しました。
社内に、ZoomRooms、Cisco WebexRoomなどのWeb会議システムを導入。テレワーク下でも社内外と円滑にやり取りができる環境を整備し、月に1回は業務後に趣味などの各テーマ別に希望者を対象としたオンライン交流会を開催しています。
新卒社員には、特に、4~6月の間、週2回、各30分程度で新卒社員や人事担当社員と雑談ができるオンライン交流会を開催。そのほか、社長から社員への定期的な情報発信の場としてMonthly Update Meetingをオンラインで開催して質疑応答を交えた双方向での意見交換を実施するなど、コミュニケーション活性化に取り組んでいます。
参照:令和3年度テレワーク先駆者百選取り組み事例|総務省
チューリッヒ保険会社
損害保険業を営むチューリッヒ保険会社(以下同社)。同社では、テレワーク導入を機にケアスタッフとSV(スーパーバイザー)との密接なコミュニケーションを実現させるため、チャット機能を活用。平時と変わらぬお客さま対応とサービスの提供を目指しています。
また、ケアスタッフのメンタルケアが課題となったため、社内SNSで在宅勤務に関する動画メッセージを配信したり、健康管理やストレス解消についての情報を共有したりするなど、各人のモチベーション維持に努めています。
在宅では難しい業務時間への切替についても、会議システムで朝礼を行い、連絡事項や前日のパフォーマンスを振りかえることで、スムーズに業務に入れる体制づくりを実現しました。
参照:令和2年度テレワーク先駆者百選 総務大臣賞 事例のご紹介|総務省
株式会社エナリス
法人需要家向けサービス(エネルギーエージェントサービス)や新電力事業者向けサービス(小売電気事業者向け需給管理サービス/電力卸取引)などを行っている株式会社エナリス(以下同社)。同社では、テレワーク環境の整備を目的として、全社員にノートパソコン、スマートフォンを一人1台貸与するほか、スマートフォンの内線化などを実施。そのほか、meet、Zoom、teamsなどを利用したWEB会議を推進するなど、どこにいてもコミュニケーションを取れるようにしています。
また、週2回以上出社、月2回は所属長と部下との1on1を実施するなど、リアルコミュニケーションの機会創出も欠かしません。
そのほかにも、Web会議の際は参加者全員が顔出しを原則とする、頻繁にWEB社内報(経営に関するものだけでなく個人にフォーカスしたものも)を配信するなど多様な方法で円滑なコミュニケーションの促進を実施しています。
参照:令和4年度テレワーク先駆者百選取り組み事例|総務省
テレワークにおけるコミュニケーション不足解消のポイントはツールの使い方
対面でのコミュニケーションに比べ、テレワーク社員とのオンラインコミュニケーションはどうしても不足してしまいがちです。その理由として、相手の状況がわからず、気軽に話しかけられないのに加え、業務以外の会話をするタイミングが計れない点が挙げられます。
これを解消するには、コミュニケーションツールの導入が欠かせませんが、単純に導入するだけで解消するのは難しいでしょう。ツールに合った使い方をする、それぞれにルールを策定するなど、企業側で工夫をすることが重要です。