新しい建築の楽しさ2020 Vol.05

特別寄稿

取材・文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

ニュータウンの母の家

藤村龍至(RFA)

埼玉県所沢市のニュータウンにある戸建住宅。その1階と庭を改修し、公共施設のようなまちづくりの拠点をつくるプロジェクト。団塊の世代が75歳を超え「2025年問題」と呼ばれる超高齢社会の到来や全国に100万戸といわれる空き家問題に備える。

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建築やまちづくりにおいて大切なのは楽しさだと思う。そして建築やまちづくりの主体の自由な表現を尊重し、様々な発表の機会をつくる関係者や社会の寛容性も大切だと考える。

RFAの藤村龍至さんが埼玉県所沢市にある椿峰ニュータウンで「母の家」プロジェクトに取り組んでいる。

プロジェクトの狙いは藤村さんのお母さんのための戸建住宅の改修であるが、それをまちづくりに役立てるのがもうひとつの狙いである。計画地は緑豊かなニュータウンの一角に建つ、もともとはファミリー向けの4LDKとして設計された住宅だ。その1階を改修する。前面道路に対してオープンな構えにして、テラスでつなぐ。手前をまちづくりにも役立てられるオープンな場、奥が生活の場になる。

椿峰ニュータウンが立地する狭山丘陵は東西約11㎞、南北約4㎞、面積約3500haにわたってひろがる丘陵地である。一様に開発され尽くした東京近郊にあって色濃い緑を残し、まるで巨大な市街地のうえに浮いている緑の島のように見える(図2)。「武蔵野エリアにおいて狭山丘陵の開発は多摩丘陵や三浦丘陵に比べると小さなものであったために旧村の勢力と新都市の勢力が拮抗し、コミュニティ支援や福祉などの住民サービスは旧村ベースで提供されてきたため、新都市の住民にとっては不利な条件となっているものもあるが、高齢化やコミュニティの空洞化により新しい運動が組織されることも少ない」と藤村さんは話す。

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狭山丘陵と連続する椿峰ニュータウンの位置

 

まちづくりにおいては住民の高齢化や自治体財政の悪化のなかで新住民と旧住民をどうゆるやかにつなげるかが課題である。
そして椿峰ニュータウンには独自の課題もあるという。それはニュータウン全体をマネジメントする主体が全くいないことである。
「椿峰ではニュータウン全体の課題に対して住民の主体的な関与もなく、行政の関与もなく、民間法人の関与もない。ここまでマネジメントがなされていない例は埼玉県のニュータウンを見渡しても珍しい。こういう場所でコミュニティ再編の背骨となるのは緑道や公園、そして緑道がつなぐ狭山丘陵の森など、ネットワークされた緑地かもしれない。ただし、屋根もなければトイレもない現状の緑道や公園では、せいぜい立ち話が交わせる程度である。ここにより濃密なコミュニケーションが起こるようにしたい」(藤村さん)。

郊外ニュータウンアクティブ化のプロトタイプをめざす

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シンポジウム (2017年1月14日)

 

2017年1月に開催されたシンポジウムで藤村さんは椿峰の住民の分断を解消し、地域の経営力を引き出すため「椿峰特別地区」を所沢市内13番目の地区として設置することを提案した。さらに2018年2月には、これまで自治会主催の夏祭りなどに限定して貸し出されていた椿峰中央公園にキッチンカーを乗り入れ、収益事業を展開するという1日限定の社会実験が行われ、これが突破口になって地元のママさんたちの発案によりマーケットの開催にこぎつけている。当面の最重要課題はこうした椿峰での運動をもとに、それを持続させ、発展させる担い手の創出である。
「まずはカフェやマーケットの定期開催をめざしたい。いずれ住民を巻き込み市に対して要望をまとめ、公園に常設のカフェを設置し、運営することができればと考えている。さらにニュータウン全体の不動産の流通など地域課題にも取り組んでいきたい。宅地建物取引士の資格を持つ母をその担い手のひとりに据え、『ニュータウンの母の家』をその拠点にしたい」(藤村さん)。

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つばきの森のマーケット(2019年6月1日)

さて藤村さんは超線形設計プロセス論で知られる。インターネットで調べてみると10数年前のある雑誌に書かれた論文の中に下記の文章を見つけた。

与条件のさまざまなインプットから「何を捨て」「何を残し」「何を固定し」「何を変化させるか」というアルゴリズムの検索を行なう並列的なプロセスと、アルゴリズムを定めたあとで全体とのバランスを定めるために無数の比較を行なう直列的なプロセスを連続させることによって、建築の設計を線形的なプロセスとして捉えてみたい。それは、論理的飛躍を前提とせず、論理的な手続きの大量反復によって、論理性を超える=超論理的な設計プロセスの可能性であるともいえる。

筆者が藤村さんと初めてお会いしたのも10数年前、姿勢を変えずに対象を拡張し続けていると感じる。

 

[プロジェクト概要]

設計:藤村龍至+RFA
敷地面積:188㎡
床面積:116.49㎡
構造:木造
階数:2階建て
工事種別:増改築
竣工予定:2021年春

[プロフィール]

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写真:新津保健秀

藤村龍至 ふじむら りゅうじ
1976年東京生まれ。2008年東京工業大学大学院博士課程単位取得退学。2005年よりRFA(旧・藤村龍至建築設計事務所)主宰。2010年より東洋大学専任講師。2016年より東京藝術大学准教授。2017年よりアーバンデザインセンター大宮(UDCO)副センター長、鳩山町コミュニティ・マルシェ総合ディレクター。主な建築作品に「すばる保育園」(2018)「小高パイオニアヴィレッジ」(2018)「OM TERRACE」(2017)。主な著書に『ちのかたち』(2018)『批判的工学主義の建築』(2014年)『プロトタイピング 模型とつぶやき』(2014年)。近年は建築設計やその教育、批評に加え、学識経験者として公共施設の老朽化と財政問題の解決を図る公共施設総合管理計画の策定、街路沿道や河川、公園緑地の利活用や中心市街地再整備や駅周辺再整備のデザインコーディネーター、歴史的風致維持向上計画や景観審議会、総合計画審議会、さらに公共施設の指定管理を通じたニュータウン活性化や移住推進など、建築の視点を活かした都市・まちづくり関連のプロジェクトにも幅広く関わる。

中崎 隆司  なかさき たかし
建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。