近年、ダイバーシティ経営という言葉を耳にする機会が増えています。多様性を意味する「ダイバーシティ」は、性別、年齢、国籍、言語、価値観などの異なるさまざまな属性の人々が集まった集団を指すものです。なぜ、今、多くの企業がダイバーシティ経営を重視し、取り組みを始めているのでしょう。今回は、ダイバーシティの概要やこれが企業経営に求められる理由から、ダイバーシティを推進するためのポイントまでを解説します。
ダイバーシティとは?
ダイバーシティとは、そもそもどういったものでしょうか。まずはダイバーシティの定義や近い言葉との差について解説します。
ダイバーシティの定義・種類
ダイバーシティとは、ある集団において性別や年齢、国籍、言語、価値観などの異なるさまざまな属性の人々が集まった状態です。
ダイバーシティをその性質に応じて分類すると、「表層的ダイバーシティ」と「深層的ダイバーシティ」の2つに分けられます。「表層的ダイバーシティ」は、性別や年齢、人種など自分自身では変えられない特徴によって分類されたもので、目に見えやすい多様性です。これに対し、「深層的ダイバーシティ」は、価値観や趣味嗜好、働き方、宗教、信条など、それぞれの生き方やパーソナリティに関わるもので、外見からは識別しにくい多様性のことです。
ダイバーシティとインクルージョンの違い
ダイバーシティに近い言葉として、「インクルージョン」があります。インクルージョンは、包括や一体性、受容といった意味を持ち、ダイバーシティをさらに一歩進めたものです。具体的には、あらゆる属性の人々が集まり、それぞれの個性を尊重し、活かしながら働いている状態を指します。
ダイバーシティとインクルージョン、双方を実現することで初めて企業経営にも良い影響を与えることが可能になるといえるでしょう。
企業においてダイバーシティが求められる理由
企業においてダイバーシティが求められる主な理由としては、次の点が挙げられます。
生産年齢人口の減少
日本の生産年齢人口(15~64歳)は、1995年をピークに減少を続け、2020年には7,509万人、2050年には5,275万人、2060年には4,793万人まで減少すると予測されています。
少子高齢化が続く現状では、この予測を覆すことは難しく、日本の多くの企業で今以上に人材不足が慢性化することは確実だといえるでしょう。
出典:令和4年 情報通信に関する現状報告の概要|総務省
慢性化する人材不足を少しでも緩和するには、女性雇用の促進、外国人労働者の受け入れ、身体障害者雇用などを積極的に行うダイバーシティ経営が必須だといえます。
多様な働き方の実現
経済産業省ではダイバーシティ経営を、「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義しています。
多様な人材が活躍できるようにするには、従来のオフィスでの働き方の枠を越える発想が欠かせません。たとえば、育児や介護で家を離れられない人は在宅で働けるようにし、オフィス内にも一人で集中して働けるエリアやチームでコラボレーションできるエリアを設置することなどが求められます。
ダイバーシティ経営を実践することで、多様な働き方が実現し、誰もが快適に働ける場をつくり出せるようになるのです。
多様な働き方について詳しくは、『ニューノーマルな働き方へ対応するための考え方や実践のポイント』をご覧ください。
企業としてダイバーシティを推進するためのポイントとは?
企業が成長する根源には人材があります。企業としてダイバーシティを推進するには、多様な人材が持つそれぞれの能力を十分に発揮できる場の提供が欠かせません。そのためには、全社的な環境やルールの整備が必要であり、次の2点を推進する必要があります。
人事制度の見直し
女性や外国人、障害者、高齢者といった人々が含まれる「表層的ダイバーシティ」に加え、LGBTやさまざまな趣味嗜好を持つ人々が含まれる「深層的ダイバーシティ」を受け入れる体制を整備します。また、単純に受け入れるだけではなく、属性にかかわらず活躍できる人事制度の見直しも重要です。女性や外国人の幹部登用を実現させるための研修制度の新設なども検討しましょう。
また、多様な人材を受け入れるためには、人事制度を見直すだけではなく、オフィスの改善、改築も必要になる場合があります。高齢者、障害者、外国人が一緒のオフィスで働くには、ユニバーサルデザインの導入が求められます。
ユニバーサルデザインについて詳しくは、『誰もが使いやすいオフィスを実現するユニバーサルデザインとは?』をご覧ください。
働き方改革の実現
多様な働き方を実現するには、裁量労働制、フレックス勤務、テレワーク導入といった制度の整備が必要です。出産や育児、介護などの理由で退職する必要のない制度や、一度退職しても働けるようになった時に復職できる制度の導入が求められます。
ダイバーシティを実現するには、全社で取り組むことが大切
企業がダイバーシティを実現するには、人事制度の見直し、オフィスデザイン変更などの変革も必要ですが、それ以上に既存社員の理解も欠かせません。
さまざまな価値観、生き方を受容してダイバーシティを実現するには、制度を変えるだけではなく、個々の社員が柔軟な姿勢で臨まなければ難しいでしょう。
そのためには、ダイバーシティ導入時に事前の周知徹底を図ることはもちろん、互いにコミュニケーションを取れる機会や場を多く設定し、現場レベルで価値観を共有し合えるようにすることも必要です。
オフィスカフェの設置、気軽にミーティングを行えるスペースの増設など、いつでもコミュニケーションが取れる環境づくりが、ダイバーシティ実現のカギだといえるでしょう。