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オフィス移転では、移転先の新しいオフィスにばかり気がいってしまい、現在のオフィスへの意識がおろそかになりがちです。しかし、現在のオフィスでやるべきことも少なくありません。そのなかで忘れてはならないのが「原状回復」です。原状回復をどこまで借主の責任で行うかについて、貸主と認識が一致していないと大きなトラブルに発展することもありえます。今回はオフィス移転の際の原状回復について、工事にかかる金額の相場、原状回復の範囲、スケジュールの目安、工事費用を抑える方法などを紹介します。

原状回復とはどういったものか

原状回復とは、もとの状態に戻すということです。一般の賃貸住宅であろうとオフィスであろうと、賃貸物件から退去する際は物件をもとの状態に戻さなくてはならないと、民法545条1項で定められています。この法律では「当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う」となっており、回復の範囲までは規定されていません。基本的に民間賃貸住宅の賃貸借契約は、契約の自由により、貸す側と借りる側双方の合意にもとづいて行われるからです。そのため、国土交通省ではトラブルを未然に防ぐことを目的にガイドラインを策定し、そのなかで原状回復を次のように定義しました。

「貸借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、貸借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」

そのうえで、その費用は貸借人の負担とし、経年劣化、通常の使用による損耗などの修繕費用は、賃料に含まれるものとしています。

ただし、これは民間賃貸住宅を想定したものであり、オフィスに関するガイドラインは現在のところ存在していません。そのためオフィスの場合は、契約時にどういった取り決めを行ったかですべてが判断されます。

原状回復・原状復帰・現状回復・現状復帰正しいのは?

原状回復と同じような言葉に「原状復帰」がありますが、原状回復は法律用語、原状復帰は建築用語だといわれています。どちらも「借りたときの状態に戻す」という同じ意味ですが、使う人の立場や場面で表現が異なることがあります。不動産契約の際は「原状回復」、原状回復するために工事を行う場合は「原状復帰」工事というように使い分けられることもあるでしょう。

ちなみに、「現状回復」「現状復帰」も見かけますが、こちらは誤りです。原状回復ならば、もとの状態(原状)に回復させるという意味がわかりますが、現状回復では現在の状態(現状)に戻すということになってしまうので、日本語としては誤りとなります。

オフィス移転スケジュールとタスクリスト

オフィスの原状回復でトラブルが起きやすい理由

オフィス移転時の原状回復に関し、貸主との間でトラブルが起きてしまうことが珍しくありません。その最大の理由は「契約書の取り決めをよく確認したうえでの事前交渉をしなかったこと」にあるでしょう。原状回復工事を行ったあとになって「契約書に記載された原状回復を行っていない」「契約内容の解釈が双方で異なる」「契約時には想定していなかった改装を行っていたため、費用をどちらが負担するかでもめてしまう」などといったケースが発生しやすく、トラブルに発展してしまいがちです。

こうしたことが起きた際、民間の賃貸住宅物件であれば国交省のガイドラインを前提に判断ができます。しかし、オフィスの場合、そのガイドラインがないことで、一度トラブルになってしまうと解決は非常に困難です。最悪の場合、原状回復をめぐって裁判になる可能性がありますが、そうなれば多大な時間とコストがかかり、業務にも支障をきたすことになってしまいます。オフィスの原状回復に関する裁判でも、費用はガイドラインに沿って算定するという判決が出たことがあります。ただし小規模オフィスでの事例であり、すべてのオフィスに適用されるとは限りません。

一般的なオフィスの原状回復の範囲とその相場

ここまで説明してきたように、原状回復の範囲は、契約書の内容によって変わってきます。一般的には次のようなものが対象になります。

  • 新たに設置した床(カーペット、タイルなど)の張り替え
  • 壁や天井のクロスの張り替え・再塗装
  • 給湯室やトイレの清掃、設備の交換
  • 照明器具の交換(入居時と違うものに変えている場合)
  • ブラインド・カーテンの交換(入居時のものに戻す)
  • 増設したオフィス用品(パーティション、受付カウンター、デスクなど)の撤去
  • 増設したコンセントや電話回線・電話配線の撤去

また原状回復工事にかかる費用は、都道府県や地域、築年数、広さのほか、移転した時点からどの程度オフィスが変わったかによっても違います。一般的には小・中規模オフィスで坪単価2~5万円、大規模オフィスで坪単価5~10万円が相場といわれています。ただし、相場はあくまでも参考にすぎず、これより安くすむ場合もあれば、逆に何倍もかかることもあるでしょう。

例えば、デザイン性を重視し内装をつくり込んだオフィスでは、坪単価30万円程度になる場合もあります。さらに、契約内容によって工事会社が決まっていて、借主側から値段交渉がしにくい場合もありますので、必ず事前に契約書を確認することが重要です。

オフィスの原状回復にかかる期間は?スケジュールの目安

オフィスの移転に伴う原状回復工事は、いつまでにすませておく必要があるのでしょうか。また、工事期間はどのくらいかかるのかも把握する必要があります。そのうえで、詳細なスケジュールを組むことが大切です。

原状回復工事は解約期日までにすませる

Mp>オフィスの原状回復工事は契約期間内にすませておかなければなりません。解約期日を過ぎても工事が完了していなかった場合、日割りで家賃が発生することがあります。また、手直しが発生した場合も考慮して、スケジュールに余裕をもたせることが重要です。工事を依頼するときは、事前に見積りをとり、工事の内容やスケジュールなどを詳細に決めておく必要があります。

工事期間は規模やリフォームの状況によって異なる

原状回復工事にかかる期間は、オフィスの規模やリフォームの状況によって異なります。一般的に、大規模であればあるほど、工事期間は長くなります。30坪程度なら2週間、100坪では1カ月が目安です。また、リフォームの状況がシンプルな内装を施している程度であれば短期間ですみますが、かなり凝った内装の場合は長期間になることが予想されます。

退去の3カ月以上前を目安に工事業者へ相談する

工事完了の期日や工事期間の目安がわかったら、早めに施工会社へ連絡しましょう。遅くとも退去の3カ月以上前には相談しておきたいものです。実際に現場を見てもらい、工事の内容や費用、スケジュールなどの打ち合わせをします。工事期間を考慮して解約日の2週間から1カ月前には転居を完了させ、原状回復工事に入るという流れです。

原状回復工事の費用を抑える方法

原状回復の工事にかかる費用が意外と高いと感じている人も多いでしょう。工事費にはおおよその相場がありますが、できるだけ安く抑えたいものです。ここでは、費用を抑える方法を3つ紹介します。

相場を調べたうえで施工会社と交渉する

オフィスの原状回復工事は、貸主が指定する施工会社が行うのが一般的です。そのため、借主側が業者を選ぶことができないケースもあります。それでも、ほかの業者から見積りを取ることが大事です。複数の業者からの見積りを比較すれば、相場がわかるからです。相場よりも高い金額だった場合、他社の見積書を提示して価格交渉を行うことも可能です。交渉により工事費用を抑えられる可能性があります。

工事費の内訳を確認する

原状回復工事の見積書は、必ず内訳を確認しましょう。必要のない工事が含まれている可能性もあるからです。内訳が記載されていない場合は、詳細を確認する必要があります。貸主が指定する施工会社に依頼する場合でも、工事費の内訳で不要な工事が含まれていないか、妥当な金額なのかを確認することが大事です。不要な工事を省いてもらえば、費用が安くなるかもしれません。

居抜き物件として次の借主に引き継ぐ

居抜き物件とは、原状回復しないまま次の借主に引き継ぐことです。居抜き物件なら、内装や設備をもとに戻す必要がなく、壊れた部分の修理やクリーニングにかかる費用だけですみます。そのため、費用を大幅に抑えられることがメリットです。ただし、事前に貸主に相談し、承諾を得る必要があります。また、内装が特殊な場合や使いにくい場合は、居抜き物件として貸し出すことが難しいのが実情です。まずは次の借主との話し合いが必要となります。

オフィスの原状回復は契約書をしっかりと確認したうえで交渉をすること

オフィスの原状回復工事は契約時の取り決めが重要視されるため、実際に工事を始める前に必ず確認しておくことが重要です。契約時には想定していない使い方や設備の導入をしている場合もあり、必ずしも契約書にすべてが記載されているわけではありません。そのため自分たちだけの判断で工事を始めてしまうと、あとになって貸主とのトラブルに発展しかねません。

トラブルを起こさずスムーズに原状回復工事を行えるよう、契約書の記載内容を前提とし、事前に貸主としっかりと交渉をすることを怠らないようにしましょう。

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