取材・文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)
港の丘(仮称)
畑 友洋|株式会社畑友洋建築設計事務所
生活とにぎわいの空間に変貌し続けるウォーターフロントに建築とランドスケープをひとつにまとめた新しい風景をつくる。
神戸市のウォーターフロントで新たな拠点づくりが進んでいる。
ウォーターフロントは土地利用が複雑に入り組むため、建築、土木、ランドスケープなど異なる専門分野が関わり、つくられてきた。ウォーターフロントに新しい風景をつくるためには専門性を超えた視点が大切である。
建築家の畑友洋さんがウォーターフロントで建築とランドスケープをひとつの風景にまとめていくプロジェクトに取り組んでいる。
計画地は神戸市の中心市街地に近いウォーターフロントにある新港第二突堤の先端部分の国有地と市有地の約6000㎡だ。
新港突堤は明治から大正期に建設され、4つの突堤が並ぶ。いちばん西側にある第一突堤は複合施設が建ち、第三突堤はフェリーなど、また第四突堤は外航客船などの係留施設として利用されている。
第二新港突堤全体の計画の名称は「TOTTEI」である。最大1万人収容規模のアリーナ「GLION ARENA KOBE」と商業施設、そして港湾緑地「TOTTEI PARK」からなる。
畑さんが取り組んでいる「港の丘(仮称)」は「TOTTEI PARK」内の建築のプロジェクトであり、港湾環境整備計画制度(みなと緑地PPP事業)の国内第一号の認定を受けている。同制度は2022年12月につくられた港湾分野における官民連携推進の政策であり、緑地などの行政財産の貸し付けなどを行い、民間活力を港湾環境整備に活用しようというものである。官民連携でにぎわい空間をつくることを目的とする。
畑さんはプロジェクトについて次のように説明する。
「新港第二突堤はコンテナ港としての機能を終えており、エリア全体計画はRegeneration(再生)をテーマにしている。それを踏まえつつ、港の丘は『Open』『View』『Green』『Symbolic』の4つを軸としており、突堤先端部の全体を劇場に見立て、神戸の海と山の風景そのものがシンボライズされるような建築にする」。
4つの軸は畑さんが計画をまとめるに当たり、国内外の港の人が集まる場所にはどのような特徴があるかを調査し、評価できるポイントを整理したものだ。
「人が集まって、うまく使われているところに共通する点が4つある。ひとつは広場性。つまり開放性、公共性などがあり、開かれた場所になっている。次に眺望を活かしている場所は人に愛されている。そして人工的なものだけで構成されたものではなくて、自然を身近に感じられるような場所になっている。最後にシンボル性。特徴がはっきりと現れている」(畑さん)。
屋上を緑化し緑地や広場と連続するように建築を開放する。
「港の丘(仮称)」の規模は鉄骨2階建て延べ床面積約1000㎡だ。
計画地全体をひとつのピクニックシートに見立て、敷地の対角線の北東の端をつまみあげたような建築だ。最大高さ約10mの傾斜屋根に植栽を施し、海に向かって傾斜する緑化空間をつくっている。屋外イベント時に、屋根の上は開放感のある観覧席になる。
「フレームをつくった上に屋根をふき、軽量土の土を盛る。そして少し浮かしてグレーティングを活用した階段を置いている。緑の面ができてその上に人が座っている状況をつくる」(畑さん)。
屋上の緑地ではなく北側にも緑地をつくり、東側には広場をつくる。それらと連続するように建築を開放する。
「屋根の上も屋外劇場みたいな場所として表だが、北側や東側の立面も表であり、ガラス張りのファサードにし、さらに開放できるようにして緑地や広場と連続させる」(畑さん)。
BBQレストランやブリュワリーなどの商業機能を備える施設内にも緑や木が感じられるフレキシブルな共有スペースを確保し、イベントと連携した様々な活用を予定している。
「港と六甲山系の山並みを一望できる場所にある。双方の雄大性と接続する、にぎわいのある建築を目指している」(畑さん)。
内湾のウォーターフロントは工場や倉庫が建ち並ぶ風景だった。物流に関していえばコンテナ物流が主流になるにつれて、内湾のウォーターフロントから物流関連施設が消えていった。そしてその跡地は高層マンションや大型商業施設などが建ち並ぶ風景に変わりつつある。つまりウォーターフロントは生活とにぎわいの空間に変貌し続けているのである。
[プロジェクト概要]
名称:港の丘(仮称)
所在地:神戸市中央区新港町130番1、130番1地先国有地
認定区域:新港突堤西地区新港第2突堤緑地
規模:1棟2階建て、鉄骨造
設計:株式会社畑友洋建築設計事務所
構造設計:tmsd萬田隆構造設計事務所
施工:株式会社柴田工務店
延べ床面積:約1,000㎡(予定)
パーク予定敷地面積:約6,000㎡(予定)
開業:2025年4月(予定)
畑 友洋 はた ともひろ
1978年兵庫県生まれ。2001年京都大学工学部建築学科卒業。03年京都大学大学院工学研究科修了。03〜04年高松伸建築設計事務所勤務。05年畑友洋建築設計事務所設立。13年~京都大学非常勤講師。17年~神戸芸術工科大学准教授。23年~神戸大学非常勤講師。
中崎 隆司 なかさき たかし
建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。
[プロフィール]