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取材・文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

鹿児島県トラック協会新研修センター

南 俊允|株式会社南俊允建築設計事務所

鹿児島の風土とつながる鹿児島県トラック協会新研修センターの移転計画。

 リスキリング(学び直し)が話題になっている。社会の変化に合わせて業務に必要とされる知識や技術を研修や実習などで学ぶことが益々重要になる。

 南俊允さんが鹿児島県トラック協会新研修センターの移転計画に取り組んでいる。

 計画地は鹿児島市内の工場団地の一画にある。敷地面積は約5800㎡で、敷地北側に出入口があり、新研修センターの建物は奥に配置されている。その長辺は約48m、短辺は17m~32mで、建物の規模は鉄骨2階建て延べ床面積は約1530㎡である。

 「敷地に対して建物を北東側に15度振って配置している。出入口から真っ直ぐ中央動線を取り、その西側中央に建築を置いている。建物は異なる7つのボリュームが集まり、雁行状に統合されている。建築外周に配置した駐車スペースに対して行き止まりのない円滑なサーキュレーションを生み出すとともに、コーナーのボリュームの配置を斜めとすることでコーナーを曲がる際の見通しを良くしている」(南さん)。

 新研修センターには協会の事務局、委員会、支部、部会、関連会社など数多くの団体、組織が集まる。1階には事務室と天井高のある定員150名の大研修室、2階の約380㎡には大小2つの貸事務室と小研修室を配置している。1階は約20人が働き、2階の貸事務室も約10人が働く予定だ。

 「プロポーザルでは災害、感染症対策、環境配慮など多角的な視点が求められた。その条件の中のひとつに『トラック協会のシンボルとして事業の拠点にしたい』というのがあった。シンボルとは何かと考えた時に、その土地の固有性、歴史性、時代性を包含した上で、現代における建築としてかたちにすることだと思った。桜島を囲むように湾状に鹿児島のまちが広がり、どこからも桜島が風景として見えるが、その場所ごと、その時々で桜島は異なった様相をみせる。それはトラック協会に限らず鹿児島の人の心の拠り所になっている。ここでは全国をとびまわるトラックドライバーの方々が、ここに帰ってきたと思えるような、ここにしかないかたちと体験としての固有性をつくることを目指した。」(南さん)。

 建物を北東側に15度振って配置しているのは、通りやまちなみとの関係、太陽の1日の動きなど検討を重ねて決めたという。

体験として記憶に残る建築をつくる

 「屋根は偏心した切妻屋根とヴォールト屋根の連なりで構成している。工業団地の建物と様相は違うが、風景としては連続するように考えた」(南さん)

 中央ホールを吹き抜け空間にし、2階にも各室をつなぐ開かれたスペースを設けている。

 「様々な人が気軽に来られること、気軽に働けることが求められた。できるだけオープンにして透明性がある状態をつくる。雁行配置にし、西日を防ぎ2~3面の採光と自然換気ができるようにしている。大研修室は集まって会議をする場所であることから単体としても感じられる中心性を持った空間にしたいと思い、ヴォールト屋根にした」(南さん)。

 内外共に多様なかたちがあり、それらによって全体の形をつくったことについて次のように説明した。

 「求められたプログラムや大きさはバラバラだったが、それらをひとつの建築とする時に個々が固有性を持ちながらも、つながることで生まれる全体性をつくろうと思った。また、建築の内外にできる人々の居場所がそのようになることを大切にした。まちなみにおける様相や内外での体験がつながり、その総体としてこの場所にしかないものになればと考えた」(南さん)。

 2019年に働き方改革関連法が施行され、2024年4月からトラックドライバーに年最大960時間までとする時間外労働の上限規制が適用される。また拘束時間の上限や休息期間の基準なども改正され、適用される。
 2024年問題と言われ、物流業界は人材確保の課題もあり輸送力不足などが懸念されている。
 新研修センターは2024年10月に完成する予定であり、この大きな変化、課題に対応するために関係者に限らず物流業界について積極的に社会にも伝える場として活用されることを期待したい。

[プロジェクト概要]
名称:鹿児島県トラック協会新研修センター
設計監理:堂園設計+南俊允建築設計事務所
用途:研修施設(研修室)
構造:鉄骨造2階建
敷地面積:5,768.47㎡
建築面積:1,145.41㎡
延床面積:1,527.89㎡
竣工:2024年10月(予定)

[プロフィール]

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南 俊允 みなみ としみつ
1981年石川県生まれ。2004年東京理科大学理工学部建築学科卒業。06年東京理科大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程(小嶋一浩研究室)修了。06〜17年伊東豊雄建築設計事務所。17年〜南俊允建築設計事務所。17年慶應義塾大学非常勤講師。17〜20年横浜国立大学大学院Y-GSA設計助手。19年〜東京理科大学非常勤講師・共同研究員。20年〜横浜国立大学大学院Y-GSA助教。23年〜株式会社南俊允建築設計事務所。

 

中崎 隆司 なかさき たかし
建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。

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