新しい建築の楽しさ2020 Vol.04

特別寄稿

取材・文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

海士町ホテル魅力化プロジェクト・ジオ拠点施設

マウントフジアーキテクツスタジオ

自然豊かな離島にある公設民営宿泊施設の大規模改修事業と新棟建設。観光振興の核として、海士町ならではのたまり場を用意し、町の人と滞在者が触れ合う機会、出会いの場をつくる。

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原稿を書くにあたり、ふっと世界で最も古い宿泊施設はどこにあるのかと思った。調べてみると、世界最古の宿は南アルプスの山々に囲まれた人口1062人(2015年)の山梨県早川町にあるようだ。2011年にギネスに認定された温泉旅館である。飛鳥時代の705年に開湯されたことから始まったというから2020年時点で1315年という長い間、続いてきたことになる。

マウントフジアーキテクツスタジオが島根県海士町で新しいタイプの公設民営の宿泊施設のプロジェクトに取り組んでいる。海士町は島根半島沖合約60kmの日本海にある小さな離島の町であり、人口2353人(2015年)の自然豊かな自給自足できる半農半漁の町だ。

プロジェクトは既存の宿泊施設の大改修事業であり、新たな客層をターゲットにした客室新棟と、既存棟とつなぐホールを建設する。これまで町が取り組んできた様々なプロジェクトとの連携を図りながら、事業と収益を島内事業者や生産者へ配分し、循環させる仕組みを構築するという観光振興の核となるプロジェクトでもある。

「建築としてのアウトラインはあるが、町全体がひとつのホテルとして機能する分散型のホテルとして組織組みからやっている。観光資源は人。その人たちと一緒に出会いの場をつくるプロジェクトだ」とマウントフジアーキテクツスタジオ代表の原田真宏さんは話す

新棟は木造(一部RC造・鉄骨造)の地下1階地上2階建て、延べ床面積1639.67㎡、客室18の規模だ。地下1階に「隠岐ユネスコ世界ジオパークミュージアム」の展示室などを設ける

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「海士町は『ないものはない』というコンセプトを 宣言しており、『なくてもいい』『大事なことはすべてここにある』という2つの意味を持つ。『ないものがない』からできるデザインを考えた。CLT工法を採用する。本州の工場で加工し、島ではそれを組み立て、上棟すればできるシステムだ。部材量は増えるが、作業量を最小化できる。家具や造作は地元にやってもらう。離島というファクターで最適な方法を見つけるというアプローチをした」と原田さんは説明する。

ホテルのなかで完結していたことを開くことでまちとの関係はより深くなる

建築は北西‐南東を軸に幅広く構える。客室は間口を広くとり、空間に対して外部に面している割合を最大化する。さらに奥行きを狭くして風景に近づき、見ている外部の比率が上がっていくことを狙う。テラスは前面ではなく隣接した形で設置する。インテリアデザインのコンセプトはhonest(正直)。構造材がそのまま仕上げ材になっている

マウントフジアーキテクツスタジオはこのプロジェクト以外にも宿泊施設のプロジェクトが増えているという。原田さんは共通するものごとを次のように語った

「キッチンがついている部屋もあるような、積極的にその地域で生活をしている自分を楽しむようなホテルが多い。そのまちで短い期間かもしれないが暮らしている自分をインスタグラムなど写真でも表現できるホテルをよく求められますね。まちの暮らしの経験が欲しい。そこの環境にそのまま暮らしたい。ホテルに集まっているまちの人たちのカルチュラルな雰囲気のそばにいるというのはうれしいわけだから、その街だからあるようなたまり場を用意し、まちの人と滞在者が触れ合う機会をつくっている。ホテルのなかで完結していたことを開くことでまちとの関係は経験としてはより深くなる」。

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マウントフジアーキテクツスタジオが設立された翌年の2005年に、当時計画された「海辺のゴシック」という神奈川県内の海辺沿いの高級貸別荘のプロジェクトを取材したことがある。構造は周辺の自然環境から触発されたという細い丸鋼に薄い鉄板を溶接した樹状の柱が連続してアーチをつくり、三角形の鉄板を組み合わせた床を支えるという構成。室内はその樹状のストラクチュアと白い床、ファブリックのスクリーンでつくられた空間だ。
それから15年経ったことになる。空間、場、物性に対する基本的な姿勢は変わっていないようだが、成熟への変化を感じる。

[プロジェクト概要]

海士町ホテル魅力化プロジェクト・ジオ拠点施設
 ・主要用途:宿泊施設
 ・主要構造: CLTパネル構法、RC造
 ・敷地面積:5,666.21㎡
 ・建築面積:781.32㎡
 ・延べ面積::1,639.67㎡
 ・設計:MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
 ・施工:前田建設工業・鴻池組 特別共同企業体
 ・竣工:2021年春(予定)

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[プロフィール]

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原田真宏 はらだ まさひろ
1973年静岡県生まれ。97年芝浦工業大学大学院建設工学専攻修了。同年~2000年隈研吾建築都市設計事務所。2001~02年文化庁芸術家海外派遣研修員制度を受けホセ・アントニオ & エリアス・トーレス アーキテクツ(バルセロナ)に所属。03年磯崎新アトリエを経て、04年原田麻魚(はらだ まお)と共に「MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO」設立。17年~芝浦工業大学建築学部建築学科教授。

中崎 隆司  なかさき たかし
建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。