新しい建築の楽しさ2020s Vol.14

特別寄稿

取材・文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

awa臨港プロジェクト

ジオ‐グラフィック・デザイン・ラボ、泉設計室、構造計画研究所

徳島市東沖洲(ひがしおきのす)にある旧印刷工場を改修して「徳島県民の生活向上と地方創生に貢献する施設」をつくるプロジェクト。災害時は広域物資輸送拠点としても活用する。

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 徳島県は筆者にとって懐かしい場所だ。もう20数年前になるが、徳島県内の観光施設などに対するデザイン・アドバイス事業のコーディネートに関わり、何度も訪れ、県庁の担当者の方と県内を巡った。そのような中のひとつに酒蔵を小規模な観光拠点施設に改修して整備するための調査のコーディネートがあった。
 新築の場合は発注者が用途を決め、建築家は与えられた条件の中で空間のデザインをする。改修で用途変更をする場合は既存建築物がどのような用途に活用できるかを調査することから始まる。用途を検討する時に建築についての知識が必要とされるわけであり、建築家は既存建築物の特性を把握した上で用途について提案することができる。改修には新築とは異なる建築の楽しみがあるということだ。

 さてジオ‐グラフィック・デザイン・ラボ(大阪市)、泉設計室(徳島県鳴門市)、構造計画研究所(東京都中野区)の3社の共同企業体が徳島県主催の設計コンペで選定され、改修のプロジェクトに取り組んでいる。

 改修の対象は徳島新聞社から徳島県に寄付された同社の旧印刷工場だ。場所はフェリーターミナルや物流施設などが建つ徳島市東沖洲の臨海エリアである。築20数年の旧印刷工場の規模は地下1階、地上3階の鉄骨・鉄筋コンクリート造、延べ床面積約9260㎡だ。1階レベルから3層吹き抜けの空間がふたつ、2階レベルから2層吹き抜けの空間がふたつある。

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巨大な輪転機が入っていた空間(写真上)をスケルトンにして、スポーツやイベントなど様々な用途に対応できるフレキシブルなスペースに。

 コンペは、災害時は広域物資輸送拠点として、平時は県民の生活向上と地方創生に貢献する施設として活用するというテーマで実施された。フェーズフリーのデザインが求められたわけである。そして2次審査では事業計画の提案も審査された。そしてコンペで最優秀案として選定されたのはインドアスポーツ施設やエデュテイメント施設、保育所、屋上レストランなどで構成された提案だった。

旧工場の痕跡を残しながら、様々な運営に対応できるフレキシブルな空間をめざす。

 ジオ‐グラフィック・デザイン・ラボの前田茂樹さんは次のように説明する。

 「大きな輪転機を入れるためにつくられた空間は迫力があった。その空間に自然光を入れるためにハイサイドライトを新設して再生させる。場所の雰囲気としては雨の日でも来られる公園みたいなつくり方にしていきたい。1階にある大きな空間はフレキシビリティのある空間にし、スポーツやイベントなどのスペースとして使っていく。今後長い時間のスパンのなかでは様々な運営が考えられるので仕上げ切ってしまわない方がいいだろうと考え、大きな機械を固定するための溝など工場の痕跡は残すが、スケルトンにして様々なことができるような場所としてつくっていく。また徳島市の中心部から離れた場所なので、ここに一日いて楽しめるような場所としてつくらなければならない。現在の徳島県にないようなものを整備し、県民が自身のポテンシャルを体験し、継続的に来てくれるようにする」。

 家具や遊具の一部に再生材の物流パレットを活用する予定だ。

 「パレットを使うことで県全体の災害物資の輸送拠点として機能することが見えるような形になる。そしてそのような家具や遊具は物資輸送拠点として活用する時には簡単に片付けることができるようにする。サイン計画も移動可能とする」(前田さん)。

 外観は変えない。

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印刷工場では裏側の搬入口だったところ(写真上)をメインエントランスに。トラックが乗り付けられるので、非常時は災害物資の輸送拠点となる。

 「新聞の印刷工場の搬入口だった裏側をメインのエントランスに変えて、全面開放できるようにしている。非常時はトラックが乗り付け、物資の搬入搬出を行う」(前田さん)。

 建築は人々の活動が行われる空間である。今回は生産活動のためにつくられた空間が災害支援活動と県民が楽しみ、学習などの活動をする空間に変わる。人間は活動のために建築を必要とし、人間の活動がある限り、建築も続く。

 

[プロジェクト概要]
 ・用途:防災拠点施設、文化・体育施設
 ・構造:SRC造
 ・敷地面積:約7,988㎡
 ・延べ床面積:約9,260㎡
 ・階数:地上3階地下1階
 ・設計:ジオーグラフィック・デザイン・ラボ

 

[プロフィール]

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前田 茂樹 まえだ しげき
2000〜10年ドミニク・ペロー建築設計事務所(フランス)にてチーフアーキテクトとして勤務した後、ジオ-グラフィック・デザイン・ラボ一級建築士事務所を設立。福井県高浜町にて漁業の6次産業施設UMIKARAや、奈良県三宅町にて交流まちづくりセンターMiiMoなど、建築(ハード)と使い方や仕組み(ソフト)を連動させた建築設計に携わる。大阪府箕面市にて駅前広場、泉大津市にて公園施設の完成が2023年度に待たれる。グッドデザイン賞2020、21年受賞、第31回AACA賞入賞。編著に『海外で建築を仕事にする』(学芸出版社、2013年)。


中崎 隆司 なかさき たかし
建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。