たとえば、社長が先頭に立って営業活動や主軸となる業務を遂行しているような企業であれば、あえて社長室を設けずに社員と同じ場所で働いたほうが効率的です。しかし、ある程度の規模で社長業を中心に行う状況になれば、社長室を設けたほうがスムーズに業務を遂行していける可能性が高いでしょう。そこで今回は、社長室を設置するメリットやレイアウトのポイント、設置する際の注意点についてお伝えします。
社長室の必要性、メリット
社内に社長室が必要かどうかを決める際の判断ポイントは、自社にとって社長室がどのような役割を果たすのか、どのようなメリットをもたらすのかを明確にできるかどうかです。
そもそも社長室の主な役割は、経営に必要な情報を収集・分析し、将来的な方針を決定することにあります。また、契約や財務などの機密情報を管理し、情報漏洩を防ぐのも社長室の重要な役割です。経営方針の策定や機密情報の管理を、社員と同じ執務室で行うのが困難な状況であれば、社長室を設置することをおすすめします。
社長室を設置する主なメリットとして挙げられるのは、次の3点です。
社長業に集中することが可能
社長の主な役割としては、経営方針・戦略の決定、重要な契約の締結、社員が快適に業務を行うための環境構築、後継者の育成などが挙げられます。
これらの業務を遂行していくには、現場の状況にとらわれず集中できる環境が欠かせません。社長室を設置し執務室と区切ることで、現場との距離が生まれ、集中できる環境が実現します。
セキュリティ管理がしやすくなる
執務室と社長室を分けることで、契約や財務に関する機密情報の管理がしやすくなります。また、役員や社員など、ほかの人に聞かれたくない会話も、社長室という区切られた空間であれば気兼ねなくできるでしょう。
これにより、情報漏洩リスクが低減するだけではなく、企業としてのコンプライアンス遵守にもつながります。
重要な来客の応対が可能になる
企業には多くのお客様が来訪しますが、なかでも社長が応対するのは、企業にとって重要なお客様であるケースがほとんどです。また、社長が応対する場合、機密情報に関する内容が含まれるケースもあるため、オープンな商談室よりも社長室のほうが適しています。
また、社長室を使うことで相手にも重要なお客様として応対していると認識してもらえるため、好印象を抱いてもらえる可能性も高まるでしょう。
社長室のレイアウトで欠かせないポイント
社長室を設置するといっても、単にスペースだけを用意し、そこにデスク、チェア、書棚を置けば完成というわけにはいきません。ほかのスペース同様、快適に業務を遂行できるレイアウト設計が求められます。特にポイントとなる点は次の3つです。
オフィス全体のレイアウトの中で最も効率的な場所に設置する
社長室はエントランスから最も遠い場所に設置するのが一般的です。そうすることで、人の出入りも少なくセキュリティ管理もしやすくなります。しかし、業種によっては、主要業務を行う部署の近くに社長室を設置し、連携を取れるようにしたほうが効率的です。
たとえば、営業重視の企業であれば、営業部の近くに社長室を設置する、開発や製造重視の企業であれば、開発・製造部署の近くに社長室を設置するのがよいでしょう。
ワークスペースをしっかりと確保する
経営方針や戦略を策定するには、多くの書類や資料を必要とするため、大きめのデスクを設置するとともに、近くに書棚を用意します。必要な書類や資料の閲覧で頻繁に立ったり座ったりするケースも考えられるため、窮屈にならないよう、しっかりとスペースを確保することが重要です。
応接スペースは余裕を持って設置する
来客が多い企業であれば、応接スペースは余裕を持って設置しましょう。4~5人ぐらいが座れるほどのスペースを取れば、社長室で会議を行うことも可能になります。また、最近では、新型コロナウイルス感染対策として打ち合わせをWeb上で行うケースも増えているため、大型のモニター設置も必須です。
経営方針とデザインを合わせる
社長室は、企業の経営方針やブランドイメージを反映する空間であると良いでしょう。
重要な顧客を招くことも多いため、単に社長が働く場所としてだけではなく、会社の理念やビジョンを具現化したデザインが求められます。
経営方針をデザインに落とし込む具体的な方法としては、企業のブランドカラーを社長室のインテリアに取り入れることなどが代表例です。
社長室を訪れる顧客や従業員に、一貫性のあるメッセージを伝えられるでしょう。
ほかにも、自社製品やロゴをディスプレイすることも効果的です。
ブランドやビジョンをデザインで表現することで、働く社長自身のモチベーションアップにもつながります。
社長室のレイアウト例8選
それぞれ異なる個性を持った社長室のレイアウト例を、8つご紹介します。
アース工業株式会社
アース工業株式会社のオフィスはゾーンごとに異なる色調を用いて、感覚的に空間のイメージや用途を伝えています。社長室には静かで落ち着いた雰囲気の、ブルーを基調とした色調が採用されています。暖色系でまとめられた執務室とのギャップが強調されることで、社長室をより落ち着きを感じられる空間へと仕上げています。
株式会社イントラスト
株式会社イントラストのオフィスは、外の景色を取り込んだ開放的な空間が魅力です。執務室と社長室はガラスのパーテーションで仕切られており、社長室から執務室全体を見渡せるためマネジメント管理もしやすくなります。
某情報通信業
スケルトン天井があり開放的な雰囲気を持つこのオフィスは、大きな窓や丸柱などの特徴的な要素を活かしながら、24時間稼動するオフィスとしての過ごしやすさも考慮しデザインされています。社長室は、ホテルライクな優しい雰囲気のインテリアが取り入れられています。
株式会社クライム 群馬事業所
株式会社クライム群馬事業所のオフィスは、ビルの特性を最大限活かすことを考慮して設計されました。高い天井をそのまま見せることで、ダイナミックな雰囲気を演出しています。社長応接室もモダンな家具でコーディネートされており、業務と応接を兼ね備えた高級感のある空間となっています。
株式会社有村紙工
株式会社有村紙工のオフィスは、緑豊かな周辺の立地と調和する空間を目指してデザインされています。自然素材を中心にコーディネートし、建具や内装材には木目を使用しました。社長室も濃い目のアースカラーを用いてコーディネートし、ブラインドも木目のものを選択しました。落ち着きとグレード感が演出されつつ、暖かみを感じる空間となっています。
株式会社アソビズム秋葉原本社
株式会社アソビズム秋葉原本社のオフィスは、柔軟な発想を生み出すためにこれまでにないオフィス環境を提供しています。
社長室は「山小屋」と呼ばれており、内装は木の表面を加工して古びた風合いを出し、本物の山小屋の雰囲気を再現しています。アソビズムならではの遊び心が表現された空間で、オフィスにおいても「面白い」を追求していることがわかります。
株式会社フジミック
株式会社フジミックのオフィスは、社長室の隔たりをなくし、風通しの良いオープンな空間を作ることをテーマにデザインされています。
実際に社長席は執務室のコーナーに位置しており、他の従業員と隔てるパーテーションは設置されていません。個室とは異なりダイレクトなコミュニケーションが可能で、全体の生産性向上に貢献しています。
サムティ株式会社
サムティ株式会社のオフィスは木目を基調とした内装を採用し、明るく心地良い空間を意識してデザインされています。
社長室には重厚感のある家具やカーペットを選択し、落ち着いた雰囲気を演出しています。また壁にガラスパーテーションを使用することで、解放感も感じられる空間に。会議室とは、窓際のガラス越しにつながっています。
社長室に必要な家具・インテリア
ここでは社長室に必要な家具や、おすすめのインテリアを紹介します。主に必要なアイテムは「応接セット」「執務用デスク」「書類棚」「サイドボード」「パソコンモニター」です。また「観葉植物」もおすすめのインテリアです。
それぞれが必要な理由と、社長室にふさわしいものの選び方を解説します。
①応接セット
社外からのゲストとの打ち合わせや会議に使用する応接セットは、企業のイメージをゲストに伝える重要な要素の一つです。応接セットの質感によって、与える印象をコントロールできます。堅実なイメージを求めるなら、素材にこだわった重厚感のあるデザインを選ぶのがおすすめです。柔軟なイメージを与えたいなら、シンプルなものやデザイン性の高いものが良いでしょう。また会議などで長時間座ることがある場合、ソファーの座り心地にもこだわって選ぶようにしましょう。
②執務用デスク
社長室には執務用のデスクが必要です。社長室には、社内で稟議にかけられたあらゆる資料が集まります。そのため、資料を並べて広げられる大きめのデスクを選ぶようにしましょう。また快適性や機能性の高い椅子も重視し、体に合わせて座り心地の良いものを選びましょう。
③書類棚
社長室には各部署から多くの重要書類や資料が集まり、保管されるため書類棚は必須の家具です。
書類棚をえらぶときには、セキュリティや機能性を考慮して選択しましょう。
例えば、執務室で使われることの多いガラス扉付きの書棚は中身が見やすく便利ですが、設置の方法によってはセキュリティ面が課題になります。
万全を期すなら、施錠可能な両開きラテラル書棚なら安心です。
また社長室の雰囲気に合わせて重厚感のあるデザインを選ぶことで、空間全体に統一感を持たせられます。
スペースが限られている、もしくは空間に広がりを持たせたいときは、ロータイプの書棚を選ぶと視界が開け空いたスペースを有効活用できます。
④サイドボード
サイドボードは、オフィス用品やインテリア雑貨を収納するための家具です。デスクや書類棚に入りきらない小物類や日常的に使う頻度の多いものを収納したり、インテリアのアクセントとして活用したりします。必要な収納スペースや、素材にこだわりながら選びましょう。
⑤パソコンやモニター
社長が長時間作業を行うためには、高性能なパソコンと快適なモニターが必要です。近年では、画像や動画を扱う機会も増えてきました。大容量のファイルを、快適に扱えるパソコンを選びましょう。また作業効率を高めるためには、モニターの視認性も重視します。ワイドモニターやデュアルモニターを採用することで、いくつもの資料を同時に比較でき、作業効率を向上させられます。
⑥観葉植物もあると◎
必須ではありませんが、社長室にはリラックス効果がある観葉植物を設置するのがおすすめです。経営者は常に経営判断を求められるため、落ち着いた選択をするためにもリラックスできるインテリアは非常に有効です。照明や湿度に適した植物を選び、メンテナンスが容易な種類を選ぶことで、厳かな社長室にもリラックスした雰囲気をもたらすことができます。
社長室設置によるデメリットはある?
社長室を設置すると、社内でコミュニケーションが取りにくくなるかもしれません。
社長が社員と物理的に距離ができるため、オープンな対話の機会が減ることが懸念されます。
社風によっては、それがマイナスになることもあるでしょう。
また専用の空間を確保するために初期投資や維持費用がかかるため、ある程度のコストも必要です。
社長室を設置する際の注意点
社長室の設置は多くのメリットがあるものの、いくつか注意しなくてはならない点もあります。具体的には次のとおりです。
社長室の家具は来客を想定して選択する
社長室に設置する家具は質へのこだわりも欠かせません。ある程度のコストをかけてでも質の良い家具を設置することで、企業自体のブランディングにもつながります。重厚感のある家具、カーペットを選択し、落ち着いた空間を演出しましょう。
セキュリティを保持しながら開放感も重視する
社長室は機密情報を保管するため、セキュリティの保持も必須ですが、同時に開放感のあるつくりにすることも重要です。たとえば、入口のドアがある面の壁にガラスパーテーションを使えば、閉塞感がなくなると同時に社員の動きも見え、コミュニケーションもとりやすくなります。
風水は取り入れるべきか?
風水は、社内環境の改善や業績アップを目指して取り入れられることがあります。おまじないのようなイメージがありますが、もともとは中国の学問で、働きやすい環境を整える効果も期待できます。
ただし必ずしも効率的になるとは限らないため、取り入れるかどうかは経営者や社長の判断に委ねられます。
会社の経営方針や、社長自身の価値観に基づいて判断しましょう。
社長室が狭い場合の工夫
社長室のスペースが限られている場合でも、工夫次第で効率的かつ快適な空間を構築可能です。
狭さを感じさせないためには、余計なものを省き、限られたスペースを最大限に活用することが大切です。
ここでは、狭い社長室をより広々と感じさせるための2つの具体的な工夫について紹介しましょう。
ペーパーレス化
会社のペーパーレス化を進めることで、書類を減らし社長室のスペースを有効に活用できます。
書類や資料が多いと、それに対応する収納が必要となり、どうしてもスペースを圧迫してしまいます。
また狭いスペースでは紙媒体の資料が積み上がると圧迫感が生まれるため、仕事の効率や快適性に影響を与えることもあります。
しかしデジタル化により資料をクラウドやパソコンで管理することで、物理的な収納の必要がなくなり、社長室をすっきりと保てるようになります。
またデジタル化されたデータは簡単に検索や共有ができ、業務効率の向上にもつながります。
多機能家具を取り入れる
多機能家具を取り入れることで、省スペース化することができます。
社長室で使うなら、収納スペースが組み込まれたデスクや必要に応じて折りたためるテーブルなどが便利です。
1つの家具で複数の役割を果たすため、多くの家具を置く必要がありません。
また壁面を活用した収納や、背の高いキャビネットなどを取り入れることで、床面積を有効に使いながら収納力を確保することもできます。
家具にこだわることで、狭い社長室でも機能的かつスタイリッシュな空間をつくりあげることができるでしょう。
企業ブランディングにもつながる社長室の設置
社長室は、社長業に集中し、経営戦略・方針の策定を行う場となります。もちろん、業種や企業形態にもよりますが、社長業に専念できる規模にまで企業が成長した際には、基本的に、社長室の設置を検討されることをおすすめします。
社長室を設置するメリットは、社長業に集中できるようになるのに加え、企業ブランディングにもつながる点です。質を重視した家具を用意し、重厚感を出せれば来客の印象もアップする可能性が高まります。
PLUSでは、さまざまなオフィス家具を用意し、多様な用途に応じた設計から設置までトータルでサポートします。新たに社長室の設置を検討している際は、ぜひお気軽にご相談ください。
応接室を設置する際のポイントについては、『応接室を設置する際のポイント、会議室との違い、家具の選び方を解説』をご覧ください。
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