新しい建築の楽しさ2020s Vol.13

特別寄稿

取材・文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

ヤマニパッケージ新社屋計画

加賀隆徳|ほとり建築事務所、魚谷剛紀|Uo.A

パッケージ資材専門企業の新社屋計画。機能が分散していた部署間の関係性と動線を整理するとともに、地図検索で容易に確認できるよう、上空から見た建物と森の姿もデザインする。

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 新規事業など企業に関するテレビニュースで流される映像は、かならずと言っていいほど本社ビルか本社が入居しているビルの外観である。それらの映像によって企業のイメージは伝わっている。

 岐阜市を拠点とするほとり建築事務所の加賀隆徳さんと芦屋市を拠点とするUo.Aの魚谷剛紀さんが、パッケージ・包装資材専門企業の新社屋計画の設計に共同で取り組んでいる。

 計画地は岐阜駅から徒歩約15分の位置にあり、近くに現社屋と複数の倉庫がある。周辺は住宅やロードサイド型店舗などが建ち並んでいる。
 計画地はL字型で南北2面が接道しており、面積は約2500㎡だ。接道面が小さい南面は交通量が多い主要道路に接する。東面は小規模な農地で建物は立っておらず、視界が広がっている。そこに延べ床面積約3000㎡、鉄骨造3階建ての新社屋を建てる。

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 既存の本社は機能が分散している。計画立案に当たって要望されたのは部署の必要面積の確保、部署間の関係性と動線の整理などだ。その他の要望の中で筆者が興味を持ったのはインターネットの地図検索で一目瞭然に説明できるようなデザインにしてほしいということだ。

 筆者は東京のJR渋谷駅から半径500m以内の屋上・屋根のデザインとビジネスをテーマとしたフォーラムを数回企画したことがある。高層ビルからの視点やインターネットの地図検索の航空写真の閲覧で屋上や屋根はファサードのように見られるものになっており、そのデザインとビジネスを考えることを促すことを目的にして実施した。この新社屋の計画はそれを実践するプロジェクトであると考える。

建物の中に森を引き込み、周辺地域住民にも開かれたファサードとする。

 さて、新社屋のプランを見ると内側を曲線にしたL字の形で配置し、中央にアトリウムを設けている。さらに建物の東側に広い面積の緑のエリアを配している

 「内外を『ヤマニの森』というコンセプトで設計した。上から見ると少し曲率の入る建物の形態と森が見える。あの森の場所だと言えばわかるということを意識した。また吹き抜け空間は環境装置になっており、採光や自然通風など建物の中にも森を引き込むという考え方だ」(加賀さん)。
 「企業としてどういう顔を持つかが大切だと思い、建蔽率60%の建て方に対して、残りの40%の在り方を考えた。周辺地域住民にも開かれた顔をつくろうと周辺に対して全体がファサードになるようにL型のレイアウトにした。また森のような場所は企業のブランディングに貢献できると考えた」(魚谷さん)。

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 緑の空間は在来種で構成する予定であり、それに面する建物の外壁材にはアルミのパネルを採用する。

 「ボリュームを消すというよりは森のような空間の風景を溶かし込んでいくことを意図している。一方、道路に対する南面のファサードは顔を整える。パンチングのアルミパネルを使い、光や風が抜けるようにする。森と合わせて、都市部とは異なるオフィスの建ち方を考える」(魚谷さん)。

 建物内部は中央に配置されたアトリウムを挟んで約300㎡の広さにフロアが分けられており、それらをブリッジでつないでいる。

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 「アトリウムは環境的に風を動かし、光を受ける場所にする。ブリッジは移動する場所であり、休憩もできる人が留まれる場所とする」(魚谷さん)。

 1階はギャラリー、商談スペース、資料庫、2階は執務室エリア、3階は食堂、屋外テラス、会議室などからなる。

 「大きな単位で区切っており、社員間の距離を自由に設定できるようにしている。3階の食堂や大会議室も執務できるように変更可能だ。また外部にも自由に選べる働く場所を用意する。新型コロナウイルス影響下やその後でも出社してコミュニケーションが取りやすい環境をつくる」(魚谷さん)。

 既製品の常備在庫が7000点以上あり、サンプルを客に見てもらいながらプレゼンテーションをするという。その一部が1階のギャラリーと資料庫に収蔵される。公開される機会の少ない空間だが、この企業の本質を表現できる重要な空間である。そのデザインは見やすさとわかりやすさをテーマにこれから検討される。どのようなデザインになるのか。楽しみである。

 

[プロジェクト概要]
・主要用途: オフィス
・構造: S造、3階
・建築面積:1507.98㎡
・延床面積:3227.08㎡
・設計: ほとり建築事務所、Uo.A
 構造:tmsd 萬田隆構造設計事務所
 設備:トオヤマ
 ランドスケープ:稲田ランドスケープ事務所
・施工:市川工務店
・竣工予定: 2023年夏

[プロフィール]

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加賀 隆徳 かが たかのり

1977年岐阜県生まれ。2002年愛知工業大学大学院工学研究科修了。2002〜04年GA設計事務所勤務。2005〜12年 塚原建築研究所勤務。2015年〜ほとり建築事務所共同主宰

 

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魚谷 剛紀 うおたに たけのり
1979年富山県生まれ。2003年愛知工業大学大学院工学研究科修了。03〜10年宮本佳明建築設計事務所勤務。11年Uo.A 設立。現在、大阪公立大学、近畿大学、摂南大学、OCT大阪工業技術専門学校非常勤講師。

 

中崎 隆司 なかさき たかし
建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。