浦安物流倉庫プロジェクト
菅原大輔|SUGAWARADAISUKE建築事務所
浦安市の工業ゾーンに建設されるマルチテナント型物流倉庫の外構計画。土地の記憶、施主の歴史を再編集しつつ、まちに開かれた3つの庭とバス休憩待合所をつくる。
消費者向け電子商取引市場が拡大し続けている。新型コロナウィルス感染症禍の中での巣ごもり需要なども拡大の要因になっている。そしてラストワンマイルの用地として東京という巨大消費地に近いエリアの需要も活発になってきている。
建築家の菅原大輔さんが取り組んでいるのは千葉県浦安市内の工場跡地に建設される物流倉庫の外構計画である。新設される物流倉庫はマルチテナント型であり、4階建て延べ床面積34,560㎡の規模だ。ゼネコンの設計で計画がかなり進んだ後に菅原さんは参加した。
発注者は製造業から不動産業に業態変換した企業のアライプロバンスである。 「クライアントの要望はこの倉庫に入るテナントに魅力的な場所と思ってもらえる物語をつくってほしい。後から計画立案に入った僕らがこの会社の歴史と埋め立て地という歴史、物語を再編集して、人の居場所になるように作り直した」(菅原さん)。
計画地は工業エリアのなかにあり、敷地面積は14,878㎡、道路側には既存のバス停があり、反対側は海に面している。
外構計画は物流倉庫のまわりに道の庭(630㎡)、海の庭(285㎡)、四季の庭(380㎡)の3つの庭と、地域に開いたバス休憩待合所をつくるという内容だ。バス休憩待合所の規模は1階建てで最高高さは4.28mである。延べ床面積は27㎡だ。
「鉄工所だった記憶を残すようにバス休憩待合所の屋根は浮遊する軽やかな鏡面天井を大スパンで飛ばし、鉄骨造を強調した。壁は埋め立て地である敷地から出た『残土』を使用した土仕上げにする。また鉄工所の銘板を設置して歴史を表す。ベンチや小あがりなど休める場所もつくり、道の庭と一体になって無機質な場所で働いている人の居場所とする。道の庭には大小さまざまな樹種を植えることで、やさしい表情をまちに向けても開いている。敷地の内側に閉じこもるのではなく、新たな価値をつくり外側に開いていきながら顔をつくっていく」(菅原さん)。
無機質な場所を自然が感じられる有機的なものにして人の居場所にする。
浦安市の緑化基本計画によると計画地は工業ゾーンという地域分けされたエリア内にある。基本計画の地域共通の施策の方向性は緑化協定に基づく緑化量の維持・向上、接道部や駐車場の緑化の推進、水辺を視認できる空間の確保などである。
四季の庭
道の庭は物流倉庫の構えの一部となる。四季の庭はバス待合所と物流倉庫の間に位置し、メインゲートとして位置づけている。昼間は開放しており、ベンチで佇める場所になる。
「海の庭には海風に強い樹種を植え、海側に顔を向けたような植栽をしている。水辺は交通、物流の拠点、顔だった。海側にも顔をつくるというのも大きなテーマであり、テラスをつくり、休憩できる場所をつくる。海と再接続させ、かつ人の居場所として活用していく」(菅原さん)。
照明計画で夜間の顔もつくる予定だ。
海の庭
物流施設の需要は活発だが、物流施設間の競争も起きており、テナント誘致のためにラウンジなどのアメニティスペースや託児所を備える動きも始まっている。
「居場所としての魅力がないと人材を確保できない。中の機能を高めていくのは重要だし、労働力を引っ張ってくるのに大事と思う。それを担保できる場ができるように屋外空間に憩える場所をつくる。同時にまちに対する顔をちゃんとつくれた方がいい。物流施設は巨大で無機質で外に開かれていないが、街への構え方を考えないといけない。無機質すぎる場所を自然の感じられる有機的な場所にして人の居場所にする」(菅原さん)。
近年、建築をまちに開くというのが建築家たちのひとつのテーマになっている。それは建築とまちとの関係性を構築するということである。物流倉庫はその機能から建築そのものをまちに開くのは難しいが、ファサードや外構を活用して周辺との関係性を構築することは可能である。そしてその関係性の構築を周辺にとって必要なものにすることもできる。 クライアントが求めた建築がまちや周辺にとって必要なものとなるような様々な試みが建築家たちによって行われることを期待したい。
[プロジェクト概要]
・主要用途:バス待合所
・主要構造: RC造、鉄骨造
・敷地面積:14,878.49㎡
・建築面積:35.12㎡
・延べ床面積::27.33㎡
・設計:SUGAWARADAISUKE建築事務所
・構造:テクトニカ
・照明:灯デザイン
・ランドスケープ:GAヤマザキ
・施工:西松建設
・竣工:2021年10月末(予定)
[プロフィール]
菅原大輔 すがわら だいすけ
1977年東京都生まれ。2003年早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了後、日仏の建築事務所(シーラカンス・アンド・アソシエイツC+A、Jakob+Macfarlane、Shigeru Ban architect Europe)で10か国22都市のプロジェクトを担当。帰国後の08年SUGAWARADAISUKE建築事務所設立。建築学博士。山梨県、港区、渋谷区景観アドバイザー。調布市まちづくりプロデューサー、明治大学、法政大学、工学院大学非常勤講師。日本建築学会作品選集新人賞、iFデザイン賞、DFA賞など国内外30以上の受賞。
中崎 隆司 なかさき たかし
建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。