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地震大国と呼ばれる日本では、地震で大きな被害を受ける可能性はゼロではありません。また、夏から秋にかけて国土を襲う台風や大雨による被害額も年々増加の傾向にあります。これら自然災害に加え、火災、サイバー攻撃、取引先の倒産など、事業を継続していくうえではさまざまなリスクが存在します。今回は、これらのリスクを軽減するために策定するBCP対策について、必要とされる背景や具体的な内容、策定の手順などを説明します。

企業の安定した事業継続を実現するBCP対策とは?

大震災というと、東日本大震災や熊本地震、そして最近では北海道胆振東部地震を思い浮かべる人が多いでしょう。ここ数年で人的被害を伴う地震が起きた場所を見ると、福島、山形、千葉、宮崎、島根、長野など多岐にわたります。特定の地域や都道府県に集中しているわけではありません。

また、1時間の降水量が50ミリ以上の大雨が発生する件数も、10年間(2009~2018年)の平均年間発生回数も1976~1985年の10年間に比較して1.4倍に増加しました。こうした自然災害に加え、サイバー攻撃、テロ攻撃といった緊急事態に遭遇した際の対策を行うことをBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)といいます。具体的には事業資産の損害を最小限に抑えつつ、中核をなす事業の継続もしくは早期復旧を可能にするための計画を指します。

BCPが必要とされる背景

自然災害や感染症の拡大、テロなどの緊急事態は突然発生します。そのため、緊急事態になってから動き始めると対応が遅れる可能性があります。緊急時でも迅速な対応をするためには、あらかじめBCPを策定しておくことが大切です。ここでは、BCPが必要とされる背景を紹介します。

災害や感染症の拡大、テロなどのリスクが高まっている

前述のとおり、地震や洪水などの自然災害はいつ発生するかわかりません。特に、近年は地球温暖化による気候変動が原因と考えられる災害が相次いで発生しています。渇水と洪水のリスクが年々高まり、対応が難しくなっているのが実状です。地球温暖化は農作物の収穫量や漁獲量などにも影響を与えています。

また、2019年に確認された新型コロナウイルス感染症は全世界に拡大し、企業の事業活動にも大きな影響を与えました。オフィスや店舗の一時閉鎖やテレワークの導入など、企業を取り巻く環境が大きく変化しました。さらに、サイバーテロや無差別テロなどの脅威も依然として収まらず、企業が巻き込まれるケースも少なくありません。緊急時への対応が不十分な場合、もともと経営基盤がぜい弱な企業は廃業や事業縮小を余儀なくされるおそれもあります。

非常時でも事業を継続するためにはBCP対策が重要

緊急時でも事業を早期に復旧させられるかどうかは、事前の準備にかかっています。BCP対策を立てておくことで緊急時でも事業を継続できる体制が整うため、会社の損害を最小限に抑えることが可能です。また、事業を継続することで、取引先からの信用確保や雇用の維持、国民の生活維持にもつながります。できるだけ早く平常どおりの操業率を回復させ、市場の信頼を維持することが大切です。

特に、会社の中核となる事業は規模が大きいほど、顧客や国民生活に与える影響が大きいでしょう。緊急時の対応が早ければ企業のイメージアップになり、事業拡大につながる可能性もあります。

BCPと防災計画の違い

BCPの一部には防災計画も含まれていますが、対象となる範囲や目的が異なります。ここでは、BCPと防災計画の違いについて解説します。

BCPはすべての非常事態が対象となる

防災計画とは、地震や津波、台風、洪水、噴火などの自然災害が起こった場合に備えて、避難や消火活動、救助などの準備を整えておくことです。地域の実情に応じて、避難経路や避難場所の確保、食料・医薬品の備蓄などを行います。防災計画は主に自然災害を対象にしていることが特徴です。一方、BCPは自然災害だけでなく、テロやリコール、食中毒などの非常事態も想定して策定されます。非常事態にどのように対応するべきなのかを事前に検証し、会社の損失を抑えるとともに早期に信頼回復を図ることが重要です。

BCP対策を講じるには他社との協力も必要

防災計画の目的は自然災害から自社の資産を守ることです。一方、BCPは緊急時でも事業を継続させることを目的としています。しかし、企業は取引先との関係により事業を行っているため、取引先が事業を停止すれば自社も事業を継続できません。そのため、BCP対策は他社と協力して策定することが重要です。例えば、連絡手段の確保や代替案での対応、非常用電源の確保などは、他社と連携することでスムーズに事業の回復を図ることが可能になります。

BCP対策は事後の対応を前提としている

防災計画は災害が起こる前に対策をすることが前提です。一方、BCP対策は災害により資産が失われた後の対応を前提としています。例えば、災害により製造に必要な機械が損傷を受けた場合、別の機械で製造を継続できるようにすることもBCP対策のひとつです。このように予備的な方法を決めておくことで、非常時でも事業を継続することが可能になります。

BCP策定の手順

BCPの策定は手順に沿って行うと効率的です。ここでは、BCP策定の手順を解説します。以下の手順でPDCAサイクルを回しながら、自社に合うBCPを目指しましょう。

1.基本方針を立案する

BCP策定の基本的な目的は、緊急事態が発生した際に、事業継続を実現するための準備をしておくことです。具体的には、「顧客からの信用」「従業員の雇用」「地域経済の活力」の3つを守るための基本方針を立案します。

2.事業への影響度やリスクを分析する

次に、想定される緊急事態をリストアップし、事業への影響度を分析しましょう。自然災害やサイバー攻撃、感染症の流行など、さまざまな状況が想定されます。状況によって自社にどのくらいの被害が及ぶのかを検証することが大切です。影響度を分析する際は、ガス・電気・交通といったインフラと、ヒト・モノ・カネといった自社への影響を分けて想定すると被害状況の把握がしやすくなります。

3.事業の優先順位を検討する

事業への影響度を分析したら、事業の優先順位に応じて業務を分類します。優先順位をつけることで、事業継続のために不可欠な業務や資源を把握することが可能です。さらに、各業務の復旧までにかかる時間を算出します。

4.具体的な計画を策定する

事業ごとに復旧までの目標時間を決め、時間内に復旧させるための対策を検討します。例えば、緊急時における連絡手段を確保しておくことで、いち早く指示系統を確立することができます。また、事業継続に必要な資源が失われた場合に、代替手段を確保することも大切です。具体的な計画を策定したら、文書としてまとめておきましょう。

5.教育や訓練を実施する

BCPを策定した後、教育や訓練を実施することで緊急時にもスムーズに対応できるようになります。教育や訓練により社内の危機意識を高めることも可能です。また、訓練時の課題を分析し、必要に応じて見直しや改善を行うことも重要です。

BCP対策を無駄にしないためのポイント

BCP対策としてマニュアルを作成したものの、いざというときに役に立たないということでは意味がありません。BCP対策を無駄にしないために重要なふたつのポイントを紹介します。

実現不可能な対策を立てない

予測の難しい将来の有事に対して対策を立てることは、簡単ではありません。しかし、だからといって甘い見通しの対策では、緊急時にまったく役に立ちません。自社内だけで将来の予測が困難という場合は、中小企業庁が公開しているガイドライン「中小企業BCP策定運用指針」を参照する、専門家の意見を参考にするなど、外部の情報を得て実現可能な対策をとることが重要です。

BCMを欠かさない

BCM(Business Continuity Management)は、事業継続のためのマネジメントといった意味を持ちます。具体的には、作成したBCPを形だけのものにしないために、有事発生時の訓練を行ったり、非常設備の整備をしたりすることです。BCPをより確実なものにするには、平常時に定期的な訓練、設備の確認を行い、常に改善点を見つけることが重要です。また、マニュアルを修正したら再度訓練し、確認するというPDCAを回していくことで、より現実的なBCPにしていきます。

運用を意識したうえでBCP対策を策定することが重要

自然災害が多いうえ、サイバー攻撃が増加している現状において、安定して事業を継続していくために、BCP対策を作成する企業が増えていることは非常に良い傾向であるといえます。

しかし、BCP対策を策定しただけでは意味がありません。BCP対策で重要なことは万が一の際、策定されたBCP対策が実際に問題なく運用できるのかという点にあります。いざというときにまったく役に立たないようでは、絵に描いた餅でしかありません。

BCP対策を策定したら必ず定期的に訓練を行い、対策に問題がないかを確認すること、つまりBCMをしっかりと行うことが大切です。そのうえで問題があれば改善し、いざというときに迅速な対応ができる状態にすることで、初めて安定した事業継続が可能になるのです。

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