超少子高齢化社会と言われる日本において、都市や建物のバリアフリー化が進んでいます。しかし、バリアフリーとは、高齢者や身体障害者にとっての暮らしやすさを求めるものであり、必ずしもすべての人の暮らしやすさを実現するものではありません。そこで登場したのが、「ユニバーサルデザイン」という考え方です。今回は年齢、性別、国籍、障害の有無にかかわらず、誰もが快適に暮らすことのできるユニバーサルデザインを、オフィスで採用する際のポイントについて考えていきます。
ユニバーサルデザインとはどういったものなのか?
ユニバーサルデザインとバリアフリーとの違いが明確にならず、混同されている方も多いのではないでしょうか。実際にはこの2つには大きな違いがあります。バリアフリーは、高齢者や身体障害者にとって暮らしやすいデザイン。これに対しユニバーサルデザインは、高齢者や身体障害者はもちろん、すべての人にとって暮らしやすいデザインを追求するものです。
そもそもユニバーサルデザインは、自身も身体障害者であったロナルド・メイス博士が、身体障害者だけでなくすべての人が快適に使える生活環境を計画しようと提案したものです。つまり、快適な生活の実現という意味ではどちらも同じですが、その対象が誰なのかという点で考えれば、その違いが分かりやすくなるでしょう。さらに、ロナルド・メイス博士が提案したユニバーサルデザインの7原則で考え方が明らかにされています。
- 誰もが常に同じように設備・機器を使える「公平性」
- 利き手、体格、身長差など個人の特性にかかわらず扱える「自由度」
- 説明書を読む、もしくは数回使っただけで扱えるようになる「簡便性」
- 情報に曖昧さがなく理解できる「明確さ」
- 誤った使い方をしてしまってもけがをする危険が少ない「安全性」
- 長時間使用したとしても疲れることのない「持続性」
- 狭すぎず、広すぎず、使う人がどういった姿勢や動きであっても問題なく使うことができる「空間性」
このように、誰もが公平に快適さを享受できるようにするというのが、ユニバーサルデザインの基本的な考え方です。
オフィスにユニバーサルデザインが求められる理由
街や建物、店舗などあらゆる場所で快適な空間をつくり出すユニバーサルデザイン。それはオフィスにおいても同様です。特に最近はオフィスデザインやレイアウトに、ユニバーサルデザインの考え方が求められるようになってきました。それには次のような背景があります。
少子高齢化による人材不足のため
冒頭でも触れたように少子高齢化が進む現在の日本では、業種や職種にかかわらず慢性的な人材不足が叫ばれています。この傾向は今後さらに進んでいくでしょう。そうしたなかで、企業は人材不足を補うひとつの施策として、優秀な人材であれば国籍、性別、年齢、障害の有無を問わず採用するようになっています。
国内外の競合が激しいグローバル社会のなかで生き残っていくため
世界中の競合しなければならない現在のグローバル社会で企業が生き残っていくためには、これまでにない柔軟な発想を生み出すことが重要なポイントになるでしょう。そこで多くの企業では人材の多様性を求め、これまでにない人材の採用が急務となっています。
このような理由もあり、優秀な人材を採用するため人材の多様性を求めた採用活動を行う企業が増えています。そして多様な人材を受け入れるための施策のひとつとして、誰もが快適に働けるユニバーサルデザインのオフィスが求められるようになっているのです。
ユニバーサルデザインを生かしたオフィスデザインとは?
ユニバーサルデザインを生かしたオフィスデザインのポイントは、「均一化」といった考え方をあらためることにあるでしょう。これまでのオフィスデザインは、基本的に個人よりも組織が優先され、組織として働きやすい環境が重視されてきました。しかし、ユニバーサルデザインでは個々人の使い勝手に合わせたうえで、誰もが快適な環境をつくり出します。
車いすでも通れる通路の幅を取る、段差をなくすといったバリアフリーと共通するレイアウトも重要です。また、デスクやいすといった個人ユースのものを選択する際は、一人ひとり別々のものにするのではなく、誰もが使いやすく快適に働けるものを選ぶようにします。例えば、キャスターのロック機能が立ったり座ったりしなくても使えるようなものや、従業員の身長差・体型差を考え高さや座面の調整の幅が広いものを選択するといったこと挙げられるでしょう。また、コピー機やFAXなどの操作画面表示は日本語だけではなく英語、中国語をはじめとする数カ国語の案内を準備するといった配慮も必須です。
ダイバーシティ経営に欠かすことのできないユニバーサルデザイン
2018年現在、経済産業省では企業の経営戦略としてのダイバーシティ経営の推進をあと押しする「新・ダイバーシティ経営企業100選」を行い、先進事例を広く発信しています。これは少子高齢化が進む日本において、優秀な人材を確保し、多様化する市場ニーズやリスクに対応していくためには、ダイバーシティ経営が不可欠だと考えているからです。
しかし、単純に多様な人材を採用したとしても、オフィスがそれを迎え入れられるものでなければ意味がありません。そこで重要になってくるのがユニバーサルデザインです。そういった意味でユニバーサルデザインは、現在のグローバル社会のなかで企業が生き残っていくための、重要な戦略のひとつになるといえるでしょう。
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