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取材・文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

仁井田本家 ヤブタ棟/酒蔵の建築群

宮城島崇人|宮城島崇人建築設計事務所

築年数の異なる十数棟から成る酒蔵の改修、減築、建て替え計画。つくり手と客の顔が見えるつながり、新たな人の動きの創出を目指す。

 日本国内の日本酒の製造者数は1400弱であり、年々減少しているようだ。そのほとんどが小規模な酒蔵である。そのような酒蔵によって酒造りが行われているわけであり、その酒の味わいは地域性が色濃い。

 建築家の宮城島崇人さんが創業1711年(江戸中期)から300年以上続く酒蔵の建て替えプロジェクトに取り組んでいる。

 依頼者は自然栽培米と天然水を使用して生酛造りという昔ながらの酒造りをしている酒蔵だ。つくり手と客の顔が見えるつながりと新たな人の動きを生み出そうと敷地内に直売所やギャラリーを設け、イベントも開催している。酒蔵のホームページによるとその目標は自給自足の酒蔵、自給自足のまちづくりであるという。

 計画地は福島県郡山市にある。計画地の中には建設された年代が異なる十数棟が連結するように建っている。

 「プロジェクトは8年前から始まっている。異なる価値観が共存している。異なる時間が流れている。環境そのものを豊かにしようとする酒蔵の姿勢に習うかたちで、効率最優先ではない改修計画を立てている。各建物を調査し、場所の読み解き、手の入れ方の選択肢の中からコスト、機能、今後の使い方を考慮して方針をつくり、それに従って減築や建て替え、改修を順次行う。建築群を切り分け、手を入れ、健全化、適法化などを少しずつ進めている。減築で出た木材や瓦、土などを再利用するなど資源も循環させながら環境を再構築している」(宮城島さん)。

 ゆっくり考えながらゆっくり直しながら変えていくことを大事にするという姿勢だ。

 「この酒蔵はある時点に最適化された工場は求めていない。一方で新しいことにチャレンジしている。現在の状態を共有し、大事なものを確認してコンセンサスをとり、楽しむことを考えていく。複数の大事なものを束の状態として全体をつくっていけば多様性を残し、活かしながら環境全体の価値を引き上げることができるのではないかと試みている」(宮城島さん)。

直す、解体、新築など大きな青写真は描いているが、マスタープランはつくらないようにしているという。

個と全体の関係性を考慮しながら豊かな余白空間をつくる

 「環境をつくるというのが大きなテーマとしてある。環境のなかに新しい建築を置くことで周辺が違って見えたり、実際に変わったりすることを意識している。狙った変化とそうではない変化がある。そこを見極めてから次を考える。生産効率を上げればいいという価値観ではなく、自給自足のひとつの環境を再構成し、開かれた酒蔵にすることを考え続けている」(宮城島さん)。

 2022年に建設された新築棟は米の保管庫と作業場からなる。土壁で包まれた矩形の米の保管庫の上に大きく張り出す鉄骨造の屋根を2重に載せ、張り出した屋根は米の搬入時の雨よけとして、またマルシェなどができる半屋外空間として広場として機能させている。北向きのハイサイドライトを設けた明るい作業場の屋根の下は、隣接する酛場蔵の外壁との間に設けられた仕込み蔵へのアプローチとなっている。

 「既存の建築群に対して部分的に新築などを挿入することで個と全体の関係性を考慮しながら建物と建物の間の豊かな余白空間をもうひとつの建築空間と捉えて、舗装や雨樋、照明なども積極的にデザインしている」(宮城島さん)。

 そして今回のヤブタ棟(藪田式濾過圧搾機設備棟)建て替えプロジェクトも他の建物とつながっているところを切り離して独立した建物として半分以上建て替える。

 「昔ながらの酒をつくる工程はそれぞれ特徴的な場所で行われている。ヤブタ棟では濾過圧搾機で酒が絞られて最初の1滴がでてくる。それを建築も表現した方がいいと思った。濾過圧搾機は作業場に置かれている状態だったが、それを衛生環境の向上のため冷蔵室に入れる。その冷蔵室を大事なものが鎮座しているということを表現する。高さ4.8m、幅 10.5m、奥行き 4.2mの冷蔵室はシンメトリーにし、赤い顔料が入った漆喰でコーティングすることを検討している」(宮城島さん)。

 この酒蔵のお酒を飲んでみた。その時にどのような料理に合うだろうかと思った。たぶんいちばんおいしく感じられるのは酒蔵のある地域の食材でつくった料理だろう。そしてお酒も郷土料理も時代と共に変化していくのだろうと考えた。

[プロジェクト概要]
仁井田本家 ヤブタ棟/酒蔵の建築群
所在地:福島県郡山市
用途:食品工場
事業主:有限会社仁井田本家
設計・監理:株式会社宮城島崇人建築設計事務所 宮城島崇人 森秀太
構造設計:yasuhirokaneda STRUCTURE 金田泰裕
構造:鉄骨造
規模:地上 2 階
ヤブタ棟延床面積:328.65㎡
竣工:2025年秋(予定)

[プロフィール]

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宮城島崇人 みやぎしま たかひと
1986年北海道釧路市生まれ。2009年東京工業大学工学部建築学科卒業。11年東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了。11年マドリード建築大学(ETSAM)奨学生。13年宮城島崇人建築設計事務所設立。18年北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程単位取得退学。主な作品に、O project(2020)、仁井田本家米倉庫/酒蔵の建築群(2022)、TAMAKAWA UPCYCLING BASE(2023)など。

 

中崎 隆司 なかさき たかし
建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。

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