この記事でわかること
- 首都直下地震が発生した場合に必要な備えの目安
- フェーズフリー家具を活用した備蓄・収納の工夫
- オフィスでの長期滞在を想定した防災対策の具体策
首都直下地震のリスクを正しく認識する
政府の地震調査委員会は、マグニチュード7クラスの首都直下地震が今後30年以内に70%の確率で発生すると報告しています。この地震による被害想定は、内閣府が2025年に公表した「首都直下地震対策検討ワーキンググループ報告書」で確認することができます。
報告書によれば、東京を含む首都圏で極めて深刻な被害が発生することが想定されています。
まずは、報告書に記載されている被害内容を数値で確認していきましょう。
- 死者数は約1.8万人、負傷者は約9.8万人
- エレベーター閉じ込めは約1.6万人
- 発災直後に最大約5割が停電し、約1,400万人が断水
- 発災直後に固定電話の約5割が通話不能、携帯電話基地局も1日後には5割が停波
- 帰宅困難者は1都4県で最大約840万人
上記はあくまでも想定ですが、ひとたび巨大地震が発生すれば未曾有の被害になることは容易に想像できます。被害想定やリスクを正しく認識し、適切に備えることが重要です。
「最低3日分」の備えができている企業は5割程度
こうした災害に対応するために、政府は「最低3日分、できれば1週間分」の防災備蓄を呼びかけています。特に東京都では、従業員を3日間待機させるための備蓄と受け入れ体制の整備を努力義務とする、「東京都帰宅困難者対策条例」を定めています。
そもそも、なぜ「最低3日分」の防災備蓄が必要なのでしょうか。大規模災害の発生直後は、人命救助や救命活動を優先する必要があるため、従業員が一斉に帰宅すると、道路の混雑などによって救助活動に支障を及ぼす可能性があります。
そこで、発災後しばらくは従業員を事業所内に待機させる「帰宅抑制」が重要となります。そのためにも、3日程度を目安に、事業所内で過ごせるだけの食料や飲料水などを備えておく必要があります。
しかし、「首都直下地震対策検討ワーキンググループ報告書」によると、実際に3日分以上の飲料水・食料の備蓄を行っている企業は大企業で約8割、中小企業では約4割であり、全体としては5割程度にとどまります。そのため、災害発生時には飲料水・食料の備蓄については早期に枯渇するリスクが指摘されています。
「最低3日分」では不足する可能性も
一方で、首都直下地震のような巨大地震が発生した場合、目安とされている最低3日分の備蓄では不足する可能性があります。地震の規模が大きいほど、広範囲でインフラが被害を受けます。その結果、外部からの救援物資が到着するのに、3日以上かかる可能性があります。
例えば、道路では信号が停止し、路面の崩壊や、放置車両の影響もあり復旧までに数日を要することが想定されています。電車は点検のために全線が運休となり、線路が変形してる場合や脱線が発生した場合は復旧までに相当な時間を要します。
また、サプライチェーンの断裂により、食料や水、非常用トイレや毛布などの物資が極度に不足する事態も想定されています。
こうした被害想定を踏まえると、外部からの支援を受けるまでには時間がかかることを前提とした備えが必要です。最低3日分にとどまらず、可能であれば1週間分の備えをすることが望ましいでしょう。
備蓄品の保管という課題
一方で、オフィスで1週間分の備蓄品を保管することは容易ではありません。
例えば、従業員100名のオフィスで必要な水を計算すると、1週間で約2100Lとなります。2Lペットボトル6本入りのケースで換算すると、175箱の備蓄が必要です。
水だけでなく、食料、非常用トイレ、衛生用品、毛布など、様々な備蓄品の保管も考慮すると、オフィスの空いた場所に備蓄するということは難しく、計画的にスペースを確保する必要があります。
とはいえ、都市部では賃料も高騰しており、防災のためだけに追加スペースを借りることはコストの面で悩ましい問題です。

フェーズフリーの考え方がもたらす解決策
こうした課題を解決するヒントになるのがフェーズフリーという考え方です。フェーズフリーとは、「平時だけでなく非常時にも役立つ」という概念です。
例えば、プラスの「ロビーチェア LS-900」は、座面の中に大容量の備蓄品を収納できる設計になっています。平時は来客スペースとしての美観を損なわず、効率的に備蓄できるという優れた例です。
他にも、プラスの「ansluta(アンスルータ)」は、平時はロビーチェアとして機能しながら、非常時は連結させて簡易ベッドとして展開可能です。
このように、オフィスにフェーズフリーの考え方を取り入れることにより、空間を有効活用しながら、必要な備蓄量を目指すことができます。
収納の工夫で場所を確保する
オフィスづくりの工夫で収納場所を確保することも可能です。
例えば、システム収納の最下段は物の出し入れの際にしゃがむ必要があるため、使用頻度の高い書類や備品の収納には向かない場合があります。そこで、最下段には使用頻度の低い備蓄品などの防災用品を保管する工夫があります。水やポータブル電源などの重量物を下段に収納することで、収納家具の重心を低くする効果も期待できます。
オフィスに小上がりのスペースを設計し、床下に備蓄するという方法や、収納の上部に天袋を追加し、毛布やトイレットペーパーなどの軽量の備蓄品を保管するという方法もあります。
防災に限らず、オフィスづくりのさまざまな工夫について、プラスのオフィス見学でもご紹介しています。
ご興味がある方はぜひオフィス見学もご検討ください。
他にも、備蓄品の選定を工夫することも効果的です。例えば、5倍巻きのトイレットペーパーや、圧縮毛布、折り畳み式のヘルメットなどの省スペースな備蓄品を選定することで、収納効率を高めた収納が可能です。防災用品を、敢えて収納せずに魅せるという方法もあります。意匠性の高いランタンをインテリアの一部として装飾し、停電などの非常時に活用するという考え方もあります。
こうした工夫をオフィスに取り入れることで、必要な備蓄品を収納効率よく準備していくことが可能です。
オフィスでの長期滞在時への備え
ここまで備蓄品の保管についてご紹介してきましたが、巨大地震が発生すると従業員がオフィスで寝泊まりせざるを得ないケースがあります。しかし、多くのオフィスでは寝泊まりを前提とした設計にはなっていません。そのため、巨大地震発生の備えとしては生活環境の整備も欠かせません。
寝泊まりスペースの確保
オフィスで寝泊まりすることになった場合、様々な問題が発生します。例えば、毛布などの就寝道具があっても横になるスペースがない、といった問題です。保管庫に余裕があれば簡易ベッドを備蓄することもできますが、多くの企業にはそこまでのスペースがないのが現状です。
そこで、オフィスに多用途に活用できるフリースペースを設けることをおすすめします。可動式のデスクやチェアを配置すれば、平時にはミーティングやセミナーなどで活用でき、非常時は床面を広げて就寝場所を確保することができます。
チェアを連結させてベッドにできる「ansluta(アンスルータ)」や、オフィスでの仮眠をサポートする「Office Nap®(オフィスナップ)」のような、休息をとることを前提とした家具をオフィスに取り入れることも有効です。
来客や役員の寝泊まり対応
災害発生時に、来客や役員がオフィスに滞在する可能性もあります。そうした場合、他の従業員と同じ環境での寝泊まりは難しいケースもあるため、応接室や役員室などの個室やプライバシーが確保できるスペースが用意できることが理想です。
応接室や役員室がないオフィスでも、簡易間仕切りがあれば簡単なプライベートスペースをつくることができます。一方で、地震直後は余震の可能性があるため、間仕切りの下で就寝するのは危険です。モノが倒れてこない安全な位置で就寝したり、プラスのエアフレットのような軽い衝立で仕切るなどの工夫が必要です。
ジェンダーや多様性への配慮
就寝場所以外にも、配慮すべきことは多くあります。近年では特に、ジェンダーの観点からの配慮も重要視されています。過去の災害では、避難所運営や意思決定の場に女性が十分に参画できず、女性用の物資や更衣室など、女性と男性のニーズの違いを踏まえた対応が不足した事例がありました。
このため、避難所運営には女性も参画し、多様な視点を取り入れることが推奨されています。オフィスに長期滞在する場合も、災害時の運営ルールや役割を一部の人だけで決めるのではなく、多様な従業員の意見を取り入れることが重要です。
トイレに隠れた様々な問題
首都直下地震が発生した場合、広範囲で断水します。上下水道の復旧には1ヵ月以上を要する可能性があり、その間水栓トイレの利用はできません。その場合、非常用トイレを利用します。しかし、過去の災害の記録からも、健康や人間関係でトラブルが発生しやすいのがトイレの問題です。
ルール・体制 利用ルールが不明瞭
非常用トイレの使い方の間違い
清掃担当の不在備蓄品の不足 処理袋・防臭袋
トイレットペーパー
除菌シートなど健康・衛生 排泄我慢による体調悪化
不快なにおい
感染症のリスク
特に、誰が清掃するかなどの問題は、ルールがないとトラブルになりやすいです。そのため、非常用トイレをただ備蓄して終わらせるのではなく、事前のルール決めなどのソフト対策が重要です。どのような問題が発生しそうで、どう解決できそうかを従業員同士で事前に話し、大まかなルールを決めておくことが安心につながります。
家具の転倒防止対策と安全チェック

家具転倒防止対策の重要性
ここまで、巨大地震が発生した場合の課題についてご紹介してきました。しかし、全ては命あってのことです。従業員の命を守るためには、家具の転倒防止対策が重要となります。
特に、高層ビルに入居している企業では「長周期地震動」に注意が必要です。これは地震の際に、周期の長い揺れが高層ビルを大きく揺らす現象です。長周期地震動の最大階級4では、人は立っていることができず、固定していない家具の大半が移動し倒れるものもあります。
こうした強い揺れに対応するため、オフィス内の家具や設備の固定が重要になります。システム収納や書架など、倒壊のリスクがある家具は、あらかじめ壁や床にしっかりと固定されている必要があります。
具体的な家具の転倒防止策については、地震に強いオフィスのページを参照ください。
定期的にオフィス環境の安全確認を
地震対策は一度やったら終わりでなく、定期的な確認が重要です。例えば、オフィスに転倒防止対策がなされていない家具があったり、対策をしていた場合でも地震対策用のつっぱり棒や固定連結が緩んできてしまうケースもあります。
こうしたオフィス環境を定期的に確認する機会として、防災訓練や避難訓練のタイミングでの点検実施をおすすめします。防災意識が高まるタイミングでオフィス環境をチェックするプログラムを組み込むことで、定期的にオフィスの安全確認をすることができます。
オフィス防災のセルフチェック項目
地震災害に対応するための、簡単なチェックポイントをご紹介します。定期的にオフィスの防災をチェックすることで、継続的に安全な職場環境を保つことができます。例えば、毎年9月の防災月間ではオフィス防災を見直す機会を設けるなど、定期的にチェックできるような計画をしましょう。
- 会社が入居するビル・建物は地震対策が十分になされているか
- 家具は転倒防止策が実施され、定期的に状態を確認できているか
- 災害時に従業員が長期滞在する場合を想定し、ルールを決めているか
- 最低3日できれば1週間分、従業員の安全や健康を守るための計画や備蓄はあるか
- 災害発生後すぐに安否確認を実施できる体制が整っているか
- 避難訓練や救急救命講習などが定期的に実施され、従業員が参加しているか
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防災対策をコストから投資へ
ここまで述べたように首都直下地震などの巨大地震が発生した場合、最低3日分の備えでは不足する可能性があります。できれば1週間分の備えが理想ですが、スペースや備品管理の問題からハードルが高いことも事実です。
そこで、オフィスへの長期滞在を前提としたオフィスづくりの工夫や、用意すべき備品、災害時のルール設定などのポイントをご紹介しました。
特に、フェーズフリー家具の導入のような施策は災害時に役立つだけでなく、平時の職場環境の質を高めることも可能です。また、平時から従業員同士で非常時の役割や運営ルールを話し合う取り組みは、部門や立場を超えた新たなコミュニケーションのきっかけにもつながります。
もし被災してしまった場合でも、従業員が安全に過ごし、業務継続ができるオフィス環境が実現できれば、継続的にサービスや価値を提供することができます。その結果として、顧客信頼の維持や新規顧客の獲得、ひいては長期的な企業価値の向上につなげることができるのです。
そうした観点から、防災は「コスト」ではなく「投資」と捉えることができます。「防災対策や備蓄品には費用がかかる」という短期的な考え方から脱却し、「有事の事業継続と従業員の安全を確保するための先行投資」という視点で、改めてオフィス防災を見直していただきたいと思います。
防災を考慮したオフィスづくりでお悩みの場合は、ぜひプラスにご相談ください。
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記事執筆・監修
もしもにスタジオ
防災士・インテリアコーディネーター・整理収納アドバイザー。
「防災をデザインする。」をコンセプトに、暮らしに寄り添う防災ノウハウを提供しています。


