今、企業にとって社員エンゲージメントを高めることの重要性に大きな注目が集まっています。これまで多くの企業は社員の満足度やロイヤリティを高めることに注力してきました。もちろんこれらは現在でも重要ですが、それ以上に重視されているのがエンゲージメントです。そこで今回は、社員エンゲージメントの概要、満足度やロイヤリティとの違いなどを見たうえで、社員エンゲージメントを高めるメリット、方法をお伝えします。
従業員エンゲージメントとは?
従業員エンゲージメントとは、従業員が企業の方向性や理念に共感し、自発的に「会社に貢献したい」と思える意欲やつながりの強さを指します。
一言でいうなら「従業員の企業への信頼度の強さ」といえるでしょう。
エンゲージメントは企業の成長を支える重要な要素で「理解度」「帰属意識」「行動意欲」の3つで成り立っています。
理解度は、企業の理念や目標を従業員がどれだけ正確に把握しているかを示しており、帰属意識は、企業への所属感やつながりを感じる心理状態を指します。
そして行動意欲は、従業員が自ら進んで業績向上のために行動する積極性を意味します。
しかし日本では、従業員エンゲージメントの水準が他国に比べて低いと指摘されています。
ある調査では、エンゲージメントの高い従業員の割合が米国では約30%であるのに対し、日本ではわずか5%程度にとどまります。
日本特有の労働文化や、個人の裁量権が限られている職場環境が影響していると考えられます。
従業員エンゲージメントと似た概念の違い:正しい理解で効果的な施策へ
従業員エンゲージメントは、多くの関連概念と混同されがちです。それぞれの用語の違いを明確にして、正しく理解することが大切です。
- 従業員満足度
従業員満足度は、職場の居心地や働きやすさに焦点を当てた指標です。満足度が高いことで離職率も下がる可能性がありますが、企業の業績向上には直結しない場合もあります。対照的に、エンゲージメントは業績向上への自発的な貢献意欲を含む点で異なります。 - ワークエンゲージメント
ワークエンゲージメントは、従業員の業務に対する精神的な充足感を示します。「熱意」「活力」「没頭」の3要素を重視し、従業員個々の心理的健康度を測る指標です。 - ロイヤリティ
ロイヤリティとは、従業員の企業に対する忠誠心を指します。従業員エンゲージメントとは異なり、ロイヤリティが高い場合でも、自発的な業績貢献を伴わないことがあります。 - コミットメント
コミットメントは、企業が従業員に期待する行動や成果を求め、それに従業員が応じる状態を指します。エンゲージメントが自発的な貢献であるのに対し、コミットメントは企業側からの働きかけが中心です。 - モチベーション
モチベーションは、従業員個々の心理的な動機を表します。一方、エンゲージメントは従業員と企業の間の相互関係を表現します。モチベーションが高くても、企業とのつながりが弱ければエンゲージメントには至りません。
従業員満足度
従業員満足度は、職場環境や福利厚生などの面で「企業の居心地の良さ」に焦点を当てた指標です。
満足度が高い従業員は離職率が低くなる傾向がありますが、必ずしも自発的に企業に貢献するわけではありません。
満足度とエンゲージメントは関連性が高いものの、満足していても企業目標への共感や行動意欲が低ければ、貢献意識は高まりません。
ロイヤリティ
社員が企業に対してどの程度の忠誠心を持っているのかを測る指標で、主に社員の企業に対する帰属意識の高さを見るものです。
エンゲージメントについてより詳しく知りたいかたは、『ワークエンゲージメントとは何か?高めるために必要なこと』の記事をご覧ください。
従業員エンゲージメントが重要視されるようになった背景
従業員エンゲージメントは、企業の成長や生産性に直結する重要な要素として注目されています。ここでは、従業員エンゲージメントが重要視されるようになった背景を3つの観点から解説します。
生産性の向上と業績向上
従業員エンゲージメントの向上は、生産性の向上に直接的な影響を与えます。
エンゲージメントが高い従業員は、自分の業務に対して強い責任感を持ち、積極的に業務の改善や効率化に取り組みます。
サボタージュや非合理的な行動が減るため、就業時間中の無駄を省き、時間を効率的に使用して業務に当たるようになります。
またエンゲージメントが高い従業員は企業の目標や価値観に共感し、その達成に貢献しようとするため、品質の高い商品やサービスを提供する傾向があります。
そのため顧客満足度が向上し、業績アップが実現するのです。
さらに生産性が向上することで企業の競争力を高め、市場での優位性を築けるようになり、目標とするビジョンの実現につながります。
モチベーションの維持
従業員エンゲージメントは、モチベーションを維持するための指標でもあります。
リモートワークやフレックスタイムなど、幅広い働き方が増える現代において、従業員が孤立感を感じたり仕事への意欲を失ったりすることが課題となっています。
そのため企業が従業員のエンゲージメントを高めることが、新たな働き方をより良いものにするソリューションとなるのです。
エンゲージメントが高まることで、従業員は自分の仕事が組織全体の成功につながっていると実感し、仕事に対する責任感や誇りを感じるようになります。
また働く環境を整えることはもちろん、福利厚生や働く環境を整えたり、明確な評価基準を示したりすることで、従業員は企業における自身の価値を認識しやすくなるでしょう。
やりがいを持って仕事に取り組めるようになることで、モチベーションが長期的に維持されます。
人材確保
少子化の影響で労働人口が減少し、企業は優秀な人材を確保するための競争が激しくなっています。
人材の売り手市場において従業員エンゲージメントを高めることは、人材の定着を促進する方法として注目されているのです。
従業員が企業に対して強い帰属意識を持ち、仕事に対して意欲的に取り組むことができれば、離職率を低下させることが可能です。
企業にとって優秀な従業員が長期的に働き続けることは、教育コストの削減につながりますし、競争力にも影響します。
また帰属意識の高い社員を経由したリファラル採用が活発になることで、採用活動全体にかかるコストの削減にもつながり、安定した人材配置が実現します。
日本の従業員エンゲージメントが低い理由
日本の従業員エンゲージメントが低い主な理由は、長時間労働や過剰な業務負担、上司と部下のコミュニケーション不足が挙げられます。
例えば上司の仕事が終わらない限り部下が帰宅できないという文化がいまだに根強く、従業員のワークライフバランスが損なわれています。
また上司の業務に関係なく、長時間の労働を行うケースもあります。
この働き方が疲弊感やモチベーションの低下につながっており、エンゲージメントが低くなる原因となっています。
また上司が部下に対して十分なマネジメントを行わない、反対に過度に命令的な指示をすることもエンゲージメントの低下を招いています。
さらに年功序列や終身雇用制度など旧来の社会構造も、若年層が会社の目標に共感しにくくなる要因で、エンゲージメントの低さに影響を与えています。
社員エンゲージメントを高めるメリット
社員エンゲージメントを高めることは企業にとって次のようなメリットがあります。
・主体性を持って企業に貢献したいと考えるようになる
従業員エンゲージメントが高まると、社員は自分の仕事に対してより強い責任感を持ち、積極的に問題解決に取り組むようになります。
企業の目標に対して自分の役割を実感し、主体的に業務改善を図るようになるためです。
あらゆる業務において高いモチベーションを発揮しますが、例えばプロジェクトへの積極的な参加や、提案を行うようになるでしょう。このような主体性が組織全体の成長を実現します。
・企業理念やビジョンに共感することで目標達成に挑戦する風土が生まれる
企業の理念やビジョンに共感することで、社員はその達成に向けて自ら積極的に取り組むようになります。
仮にあるIT企業が「IoTを通じて暮らしをより良くする」というビジョンを掲げた場合、そのビジョンに共感した社員は、企業の目標達成のために努力するでしょう。
また、そういった社員の行動は周囲にも伝播するため、企業全体の社内風土も高まります。
・離職率が低下する
従業員エンゲージメントが高まることで、社員は企業に対して強い愛着を持つようになります。企業に対する忠誠心や帰属意識が向上し、長期的に働きたいという意欲が強くなるため、離職率が低下します。
優秀な人材が働き続けることで、業務効率や業績が向上することはもちろん、新たな人材を確保するための求人コストも削減できます。
社員エンゲージメントを高める方法とは?
社員エンゲージメントを高められれば、企業はさまざまなメリットを得られますが、具体的にどのようにすれば社員エンゲージメントを高められるのか、その方法を説明します。
・的確なエンゲージメント調査で現状を把握
エンゲージメントの調査は、エンゲージメントサーベイやパルスサーベイと呼ばれる方法で可能です。
エンゲージメントサーベイは年数回の大規模調査で、全社的な傾向を把握するのに有効な方法です。
一方、パルスサーベイは短期間で実施でき、即時のフィードバックを得るために役立てられています。組みあわせて行うことで、従業員のニーズや課題を早期に把握し、改善策を講じやすくなるでしょう。
・柔軟な働き方の実現
テレワークやフレックスタイム制などを導入することで、従業員は自分の生活スタイルに合わせた働き方が可能になり、エンゲージメント向上に寄与します。
例えばテレワークを導入した企業では、通勤時間の削減や家庭とのバランスが取りやすくなることが期待できます。
またフレックスタイム制を取り入れることにより、仕事とプライベートをより効率的に両立できる環境が整います。
・オープンなコミュニケーションで信頼関係を醸成
1on1ミーティングや社内SNSを活用することで、上司と部下、同僚間の信頼関係を築きやすくなります。
1on1ミーティングでは、主に個々の課題や不安を上司・部下間で共有し、解決策を一緒に見つけることを目的とします。
またチャットツールを利用した社内SNSで気軽に意見交換を行うことで、従業員同士のコミュニケーションが活発になります。
働きやすい環境に関連して、『フリーアドレスとは?ハイブリッドワーク時代のオフィスづくりに最適!』や『コミュニケーションと集中のメリハリを実現する集中ブースの効果的活用方法』の記事もご覧ください。
従業員エンゲージメント向上の成功事例
ここでは、それぞれ異なるアプローチで従業員エンゲージメントの向上に取り組んだ企業の事例を紹介します。
- 小松製作所
小松製作所では、マネージャー層の能力向上に投資を行い、従業員エンゲージメントの向上に成功しています。マネージャーが従業員との信頼関係を築き、モチベーションを高める方法やチームワークの重要性を学ぶための研修を実施しました。この取り組みの結果、従業員エンゲージメントが33%から70%に向上し、工場のパフォーマンスも9.4%改善されています。 - スターバックスコーヒージャパン
一方スターバックスは、従業員の成長をサポートする取り組みを行っています。学士号取得のための資金援助や、通信教育補助を提供し、従業員がスキルを磨ける環境を作り出しました。また、マニュアルではなく、理念に共感した従業員を「パートナー」と呼び、自発的な行動を促進することで、エンゲージメントを向上させています。
成功のポイント
- マネージャー層の能力強化
- 従業員の成長支援と学びの機会の提供
- 従業員との信頼関係の構築
- 理念に基づく企業文化
従業員エンゲージメントと企業業績の関係性
従業員エンゲージメントが企業業績に与える影響は、非常に大きいとされています。
従業員が自らの仕事にやりがいを感じ、企業の目標に共感することで、仕事の効率や生産性が向上します。
厚生労働省の調査によれば、ワークエンゲージメントスコアが高い企業は、労働生産性が向上している傾向があり、エンゲージメントのスコアが1単位上がるごとに生産性が1〜2%向上するとされています。
また従業員エンゲージメントを向上させることで、従業員のモチベーションが維持され、離職率の低下や人材の定着率向上にもつながります。
企業は新たな人材を採用するためのコストや教育にかかる時間と費用を削減できるので、安定した運営を実現できます。
社員エンゲージメントを高めるポイントは企業と社員の対等な関係性の構築
エンゲージメント向上のためには、企業と社員の対等な関係の構築が必要です。
対等な関係性では社員の意見が尊重され、業務に対する自主性が高まり、働く意欲が向上します。
企業側が一方的に指示を出すのではなく、社員との対話を大切にし、共に成長していく姿勢が求められます。そのための、具体的な施策例は以下のとおりです。
- 定期的なフィードバックの実施
社員の意見や課題をしっかりと聞き、改善に取り組む。
- 役職に関わらずオープンなコミュニケーション
上下関係に関わらず、自由に意見交換ができる環境を作る。
- 社員の成長支援
キャリア開発のサポートを行い、社員の能力向上を促進する。
また日本企業では、伝統的に上司から部下への指示が強調されがちです。しかしエンゲージメントを高めるためには、部下の意見を積極的に取り入れる柔軟な姿勢が求められます。