新しい建築の楽しさ2020s vol.08 | オフィス移転・リニューアルのプラス株式会社ファニチャーカンパニー

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取材・文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

笹島高架下オフィス

高野洋平+森田祥子|MARU。architecture

鉄道高架下に木造2階建てのテナントオフィスビルをつくるプロジェクト。RCの高架柱に木造の分解された襞が多数出てくる。木造の良さを生かして、人間の取っ掛かり代があるような空間をめざす。

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鉄道の高架下の空間というとどのようなイメージをお持ちだろうか。
最近はショッピングモールや宿泊施設、保育園、賃貸住宅など様々な用途に積極的に活用する事例が増加している。オフィスを用途にする例ではこれまでは鉄道関連会社の活用が多かったようだが、特徴のあるテナントオフィスとしての活用も試みられるようになってきている。

マル・アーキテクチャの高野洋平さんと森田祥子さんが東海道新幹線の高架下に建つ、木造2階建て延べ床面積約1000㎡のテナントオフィスビルのプロジェクトに取り組んでいる。デベロッパーは名古屋ステーション開発だ。

計画地はJR名古屋駅に近い「ささしまライブ」という大規模再開発エリアの端に接し、向かいにはストリングスホテルが建っている。反対側はJR東海道線、名鉄名古屋本線が並行している。

構造は高架のRCの柱梁に依存してはならず、高架の基礎に大きな荷重をかけることもできない。鉄骨では2層は難しい状況だが、今回それらの課題を解決するために帝人が開発した炭素繊維を埋め込んで強度を高めた集成材を使用し、木造にする。鉄骨に比べ重量を軽くでき、断面も小さくできる。さらに通常の集成材の断面でスパンを飛ばすことができる。

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構造断面イメージ

「高架という土木建造物と繊細な木がからんでオフィスができるのはおもしろい現代的な現象だと思っている。木造は他の構造形式よりも部材数が多い。RCの高架柱があり、そこに木造の分解された襞が多数出てくる。そのような人間の取っ掛かり代があるような空間を木造の良さを生かしてつくりたいと思った」(高野さん)

「すべて木造だが、真ん中の部分に耐火木造を挟み別棟扱いにし、1000㎡を超える木造の耐火要件をクリアしている」(森田さん)。

働き方とともに働く場所も選べるオフィス

前面を歩道にする計画がある。ファサードは立体的に様々な場所があるという空間の構成をそのまま表現する。屋根は高架の形状によって分割し高さを変えている。その軒下を歩くと天井が変化し、まちを歩く楽しさを演出する。

さて、現在は新型コロナウイルス感染症禍のなかにある。その状況でのオフィス計画について、森田さんは次のように説明する。

「計画が始まったのはリモートワークに移った時期であり、これからのオフィスを考えた。皆が集まれない、集まりたくないということが起こったときに、働き方とともに働く場所もオフィスのなかでも選べるようなことが必要ではないか。大きな構成のデザインにしてひとりにもなれるし、違う部署の人と出会える場所もある。このように集まらないでいられる場所もあれば集まれる場所もあることで多様性が生まれてくる。また様々なプロポーションの場所があり、自分がいる場所の先に続きがあって、そこに他者の場所が見えているという状態がここまでが自分の場所だというふうに感じとれるきっかけになるのではないかと考えた」。

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高架の梁は2段になっている。その梁を避けながら床をスキップフロア状に分割し様々な使い方ができる場所をつくっている。視線が抜け、1階と2階がつながってみえてくるような一体的な空間にしている。

IT系企業が入居する予定だ。2階を執務空間として使用する。1階は打ち合わせスペースなどとし、セミナーやシンポジウムなどを行うイベントのスペースとしても使用する。

筆者はフォロワーシップが活性化している集団にふさわしい空間はどのようなデザインだろうかと考えたことがある。フォロワーシップとは集団の目的を達成するためにフォロワーがリーダーを支援する集団的な機能のことである。その機能が活性化、言い換えればフォロワーが自発的になるのはリーダーとフォロワーの関係がフラットであり、かつフォロワーが様々な意見や価値観を持ったメンバーで構成されている集団であるだろう。そのような集団の活動の情景が現れるのは、多様性を促す大きな構成の空間と柔軟性があるインフィルの組み合わせによるデザインではないかというのがその時の結論だった。

[プロジェクト概要]

名称:笹島高架下オフィス

  • 建築面積:567.60㎡
  • 延床面積:985.82㎡
  • 用途:事務所
  • 構造:木造、2階
  • 設計:MARU。architecture
  • 構造:坂田涼太郎構造設計事務所
  • 設備:設備計画
  • 施工:シーエヌ建設
  • 竣工:2022年(予定)

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[プロフィール]

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高野 洋平 たかの ようへい
1979年愛知県名古屋市生まれ。2001年名城大学卒業。03年千葉大学大学院修了。03~13年佐藤総合計画。13年MARU。architecture共同主宰。13~16年千葉大学大学院博士後期課程。14年~伊東建築塾 講師/プロジェクトメンバー。17年~関東学院大学非常勤講師。17年~芝浦工業大学非常勤講師。20年~法政大学、武蔵野美術大学非常勤講師。

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森田 祥子 もりた さちこ
1982年茨城県つくば市生まれ。2008年早稲田大学大学院修了。10~13年NASCA。10年MARU。architecture設立。11~14年東京大学大学院特任研究員。13年~MARU。architecture共同主宰。17年~昭和女子大学非常勤講師。19年~東京電機大学、明治大学非常勤講師。。

中崎 隆司 なかさき たかし
建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。

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