国が掲げる「働き方改革」を実現させるうえで、効果が高いといわれているペーパーレス化。業務効率化やテレワークの推進など、さまざまなメリットを企業にもたらします。
しかし、思ったほどペーパーレス化は進んでいないのが現状のようです。なぜ多くのメリットのあるペーパーレス化が進んでいないのでしょう。今回はペーパーレス化のメリットとデメリットを踏まえ、なかなか企業に浸透しない理由を見ていきます。そのうえで、定着させる方法やツール、成功事例を紹介します。
ペーパーレス化を行うことのメリット
ペーパーレス化を行うことの具体的なメリットとしては、次のようなことが挙げられます。
書類を探す手間が省ける
ペーパーレス化した場合、文書はデジタルで利用することになるでしょう。デジタル文書は一定のセキュリティのもとで、いつどこからでも閲覧が可能です。情報共有にタイムラグがなくなり、テレワークやモバイルワークの推進にもつながるでしょう。
情報の共有が瞬時に行える
デジタル文書は、一定のセキュリティのもとに、いつどこにいても閲覧が可能です。そのため情報共有にタイムラグがなくなります。さらにテレワークやモバイルワークの推進にもつながるでしょう。
紙を保管する必要がなくなりオフィスの省スペース化になる
ペーパーレス化して書類を保管するラックや棚が必要なくなることで、オフィスの省スペース化が実現します。固定費の削減も可能です。
柔軟なオフィススタイルが可能になる
紙がなくなることで、各自のデスクの引出しをなくすことも可能でしょう。これによって常に席が固定しているスタイルから、フリーアドレスのように新たなオフィススタイルも取り入れやすくなります。
印刷やFAXにかかる時間とコストが削減される
ペーパーレス化が社内に浸透すれば、会議のたびに人数分の資料を印刷する必要がなくなり、印刷にかかる時間やコストを削減できます。またFAXもパソコン上で確認できれば、FAX機まで書類を確認しに行く手間もかかりません。
震災や天災の際に重要書類が守られる
デジタル文書をクラウドに保管しておくことで、震災や天災の際にも重要な書類を紛失するリスクを軽減できます。昨今多くの企業が取り組んでいるBCP(事業継続計画。自然災害・事故・不祥事など被害を最小限にとどめ、早急な復旧をさせるマニュアルのようなもの)対策にもなります。
ペーパーレス化のデメリットと進まない理由
これだけ多くのメリットがあるペーパーレス化ですが、次のようなデメリットが挙げられます。
システムダウンが起きた際に書類が読めない
停電やサーバトラブルなどによって、デジタル文書が読めなくなってしまう可能性があります。ペーパーレス化で紙文書をなくすことの弊害といえるかもしれません。
画面の大きさによって見づらいケースもある
モバイルやモニターの大きさ、解像度によっては、紙の文書に比べて視認性が低くなる場合があります。
ITリテラシーの差によって情報共有がしづらくなる
社員のITリテラシーの差によって、紙の文書よりもかえって情報共有がしづらくなる場合もあります。細かいものもあげれば、デメリットはほかにもあります。しかし、多くのメリットを覆すほど大きなデメリットはないといってよいでしょう。
しかし、なぜ思ったほどにペーパーレス化が進んでいないのでしょうか? その理由として、次のようなことが考えられます。
紙で見ることに慣れてしまい、移行が難しい
特に年配の社員は、これまで何十年も文書は紙で見ることが当たり前だったため、デジタル文書になじまず移行が進まないといったケースは少なくありません。
初期導入コストがかかる
これまでの膨大な紙の文書をデジタル化する時間とコストがかかるため、導入をためらう企業も多いようです。
すべての書類をデジタル化することで、かえって効率が悪くなり途中でやめてしまう
書類にはデジタル化すべきものと紙のままにすべきものがあります。無駄なものまですべてデジタル化すると、効率が悪くなることも。効率が下がったことでデジタル化を中止してしまい、さらに効率の悪化が引き起こされるケースもあります。
ペーパーレス化を実現させるためのポイント
なかなかペーパーレス化に踏みきれない理由を踏まえたうえで、実現させるにはどうすればよいのでしょう。いくつかのポイントを紹介します。
事前にデジタル化するものとしないものを明確に分ける
ペーパーレス化を導入するうえで、デジタル化するものとしないものを明確に分ける作業は非常に重要です。仕分けをせずにデジタル化を進めると、必要のないデジタル文書が増えることになり、メリットである検索性が損なわれてしまうでしょう。ペーパーレス化のメリットを最大限に生かすためにも、事前の仕分けは必須といえます。
ペーパーレス化は一気に行うのではなく、できるところから始める
企業によっては一部を紙で残しておきたいといった理由から、すべてのデジタル化ができないケースがあります。ペーパーレス化は必ずしも全社で一気に行う必要はありません。できるところから始めてみましょう。
クラウドサービスを活用し、コストをかけずに行う
ペーパーレス化の導入を低コストで進めるには、クラウドサービスをいかに効果的に活用するかがポイントです。またクラウドサービスの活用で、テレワークやモバイルワークの導入も可能になります。
ペーパーレス化を実現させるために便利なツール
ペーパーレス化を行う際には、事前にいくつかのツールを導入すると、実現しやすくなります。ペーパーレス化を実現し、その効果を高めるためには、次のようなツールがあると便利です。
ペーパーレス化を実現するために便利なツール
文書管理システム
ペーパーレス化を効率よく行い、デジタル化された文書を管理する。これをすべて手作業で行おうとすれば、かなりの手間がかかります。特に、管理が的確に行われない場合は、必要な文書を見つけづらくなる、間違って削除してしまうといったこともありえます。そこで、おすすめしたいのが文書管理システムです。ペーパーレス化、管理、検索、期限や特定の条件の設定による自動廃棄などの機能があり、担当者の負担を軽減できます。また機種にもよりますが、承認・申請のワークフロー機能も付いており、外出先からの業務効率化も同時に実現します。
クラウドストレージ
文書管理システムはペーパーレス化をするうえで大きな効果を発揮しますが、まずは一部のペーパーレス化から始めたいといった場合におすすめなのがクラウドストレージです。文書管理システムに比べ、できることは限られますが、デジタル化された文書の管理、検索といったことのみなら、クラウドストレージでも十分対応可能です。
ペーパーレス化の効果をさらに高める便利なツール
タブレット端末
デジタル化された文書を外出先で閲覧することはスマートフォンでも可能ですが、商談の席で相手に文書の確認をしてもらうには、画面が小さすぎて不便です。そこで、外出が多い営業社員にタブレット端末を携帯してもらうことで、視認性も向上し、商談もスムーズに進むようになります。
Web会議システム
ペーパーレス化により、テレワークやサテライトオフィスといった柔軟な働き方を実現しても、会議のたびにオフィスに出社となれば、時間的にも経費的にも無駄が増える場合があります。しかし、Web会議システムを導入すれば、オフィスに出社する回数を大幅に軽減できるうえ、簡単なミーティングも行えるため、オフィスにいるのと変わらない働き方が可能になります。
ペーパーレス化導入事例
ここで、実際にペーパーレス化を導入した企業の事例を紹介します。プラス株式会社ジョインテックスカンパニー関西支社では、業務効率化、生産性向上のほか、紙文書を減らすことでオフィスに空きスペースをつくりました。また、BCP対策として防災用品を整備することを目的として、ペーパーレス化を導入しました。
導入に際して、ペーパーレスの知識と技術を体系的に学習し、認定資格試験に合格した「ペーパーレスアドバイザー」を中心に各部門よりメンバーを選任し、ペーパーレスプロジェクトチームを発足させました。具体的な実施方法は次のとおりです。
1. 個人で管理している書類と、もともと集中管理している書類に分けたうえで、それぞれの持つ文書についてデータ保存ずみかどうかを確認。確認後、すでにデジタル化されている文書は基本的に廃棄。ただし、念のため重要文書であるかどうかを確認し、重要文書であれば、個人または各チームで保管。
2. デジタル化されていない文書については、個人管理の文書は5年以上見ていないものであるかという点、集中管理している文書は、法定義務や個人情報などを勘案のうえ、廃棄か保管かを決定。
この際、収納量の50%削減を数値目標として行い、約2カ月で文書や不要な物品合わせて約2トンを廃棄。これにより書庫5台に空きスペースを確保し、防災用備品庫に流用できました。
業務効率化だけではないペーパーレス化の大きな効果
ペーパーレス化は、無駄な紙資料を減らすことでコストダウンや、時間の短縮による業務効率化に大きく貢献します。ペーパーレス化のメリットはそれだけではありません。地震、台風といった自然災害や大火災、またはテロ攻撃を受けたときのBCP対策としても大きな効果を発揮します。また、フリーアドレス制を導入しやすくなり、社員間のコミュニケーション活性化にも役立つでしょう。
デジタルデータを閲覧するためのタブレット端末購入といった初期コスト、システムダウン時の対応など、解決しなければならない課題があることは確かです。そのため一気に導入するのではなく、できるところから進めていくことをおすすめします。
コストダウンや省スペース化などの効果を見ながら、段階的に導入することがペーパーレス化を実現させるポイントといえます。