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取材・文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

都城ハッピーハット

齋藤隆太郎|株式会社DOG一級建築士事務所

単身女性高齢者の終活支援をする共同住宅プロジェクト。皆が気分よく過ごせるような仕組みをつくる。

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孤独・孤立が社会の課題になっている。核家族化や未婚率の上昇などで単身高齢者が増加している。約20年後には単身世帯は約4割に達し、さらにその約4割を単身高齢者世帯が占めると見込まれるという。男女の平均寿命から女性の単身高齢者世帯の比率が高くなると推測される。
そして生活保障に対して様々な公的支援の制度がつくられているが、その制度の枠に入らない人たちがいる。

DOGの齋藤隆太郎さんが東京大学教授の大月敏雄さんとともに単身女性高齢者の終活支援をする共同住宅のプロジェクトに取り組んでいる。クライアントは NPO法人 HAPPY だ。

「福祉系の建築計画をやっていて問題になるのは制度が対象者別になっていることだ。例えば介護保険制度は高齢者などを支援する制度だが、その対象に入らない事案を抱え困っている方々がいる。このNPOはDVや財産整理、居住など福祉制度が適応されない事案を抱える独居女性高齢者の支援をしている」(齋藤さん)。

「計画に当たり約120人にインタビューした。相続や困りごと、将来頼れる親族がいるかなどの質問をした。子供には頼りたくない、こういう建物があればすぐ入りたいなどの回答があり、半数が困っていた」(齋藤さん)。

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計画地は宮崎県都城市の郊外にあり、周辺は戸建て住宅が建ち並んでいる。長方形の計画地の敷地面積は約1400㎡、今回建てる建物の延べ床面積は約477㎡だ。増築の計画もあるという。広さと間取りが異なる賃貸の5つの住戸、地域交流拠点の高齢者健康増進スタジオ、カフェ、事務所で構成されている。事務所はNPOの事務所と税理士事務所を兼ねている。NPOの代表のひとりが税理士であり、相続などの法務を支援する。またNPOのメンバーが住み込み、見守りをする。

「分棟のように見えるが、一体の建築として認められている。建物の軒と、建物間をつなぐ居住者用駐車場やウッドデッキ上のポリカーボネート製の屋根をラップさせている。それによって建物とその他の部分の縁を切り、地震時に結節部に応力が集中することを防いでいる」(齋藤さん)。

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ハットをモチーフにした意匠と広い敷地を意識したたたずまい

「意匠的には木の家にかわいらしいハットを被せている。屋根に小屋を乗せ、帽子のような形をつくり、ガルバリウム鋼板製の帽子を被せている。そして帽子のつば、つまり軒をたくさん出すことで外装材を雨風から守っている」(齋藤さん)。

道路に面する東側前面に来客者用駐車場、そしてその奥に間口約20mにスタジオとカフェを長屋門形式で配置している。

「いままでの福祉施設は壁で囲って入居者を収容していた。いまは開く福祉の流れになっているが、対象者を細分化していくと福祉の中でも姿かたちが違う。開き方は性質によって変えていかなければならないと考えている。何もかも開くのではなく、気分よく皆が過ごしてもらうための配置にしている。住居エリアは閉じているが、スタジオやカフェがあることで楽しく暮らしていけるような仕組みをつくっている」(齋藤さん)。

視線が抜け、地域のシンボルである霧島連峰が見えるように住戸間を空けて設け、芝生広場、中庭、ウッドデッキ、菜園などを配置している。建物は木造であり、構造材はベイマツを使うが、外装材には地元の飫肥杉を使用する。そして軒先を移動や滞留などのための空間としている。

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「広い敷地のなかに建てるにあたり、中庭やデッキの取り方、相互の見守り目線が行き届くような住戸の離し方、その住戸の高さ、ボリューム感などはたたずまいを意識した。また高齢者が使用する建築であり、段差をなくし、ヒューマンスケールに落とし込んでいる。天井高を2300mmぐらいにしているが、屋根に小屋を乗せた部分は天井が高く、ハイサイドから光を採り入れている。相続の時に困るのが遺品整理であり、家具は建築でつくる」(齋藤さん)。

自宅が居心地よく、安心できると感じるのは同居者のことやどこに何があるかがわかっているからだ。自宅以外では他者との関係がわかり、社会との関係がわかるようにすると居心地のいい居場所になる。

[プロジェクト概要]
名称:都城ハッピーハット
所在地:宮崎県都城市
主要用途:集合住宅+集会所
基本計画:大月敏雄(東京大学)+齋藤隆太郎(DOG)
設計・監理:DOG一級建築士事務所
建築面積:512.23㎡
延床面積:477.32㎡
構造:木造
規模:地上1階
構造設計:田中哲也建築構造計画
設備設計:DOG一級建築士事務所
照明設計:DOG一級建築士事務所
外構設計:稲田ランドスケープデザイン事務所
施工:匠家
竣工(予定):2023年9月

[プロフィール]

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齋藤 隆太郎 さいとう りゅうたろう
1984年東京都生まれ。2006年東京理科大学工学部建築学科卒業。08年東京理科大学大学院工学研究科建築学専攻修了。08~14年株式会社竹中工務店設計部勤務。14年株式会社DOG一級建築士事務所設立。15~22年日本工学院非常勤講師。21年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士後期課程修了、博士号(工学)取得。21~22年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻特任研究員。22年~東北工業大学建築学部建築学科講師。22年~東京大学大学院工学系研究科建築学専攻客員研究員

中崎 隆司 なかさき たかし
建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。

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