少子高齢化が進む日本において、今後、15歳以上65歳未満の生産年齢人口は減少の一途をたどっていきます。そうしたなかで企業が成長を続けていくためには、大きな変革が求められます。変革の重要なポイントとなるのは、業務効率化です。働ける人口が減っていく以上、業務の効率化を進めなければ生産性は必ず落ちていくことになります。今回は、業務効率化が求められるようになった背景と、効率化を実現するためのポイントについて、企業の事例を見ながら考察します。
今、企業に業務効率化が求められている理由
企業に業務効率化が求められる理由のひとつは、生産年齢人口の減少にあります。総務省が毎年発表している「情報通信白書(平成29年版)」によると、生産年齢人口は1995年を境に減少に転じています。この傾向は今後さらに進むと見られています。2015年に7,629万人だったのが15年後の2030年には6,773万人、45年後の2060年には4,418万人と大幅に減少すると予測されているのです。
生産年齢人口が減少することの最大の問題は、働き手不足です。現在でも、特に中小企業における人手不足が大きな社会問題となっていますが、このまま生産年齢人口が減少していけば、その影響は大企業にもおよぶことになります。大企業の人手不足が常態化すれば、そのしわよせが中小企業におよび、今以上に厳しい状態になることは火を見るよりも明らかです。
人手不足が常態化したなかで企業が成長を持続させるには、今以上に生産性を上げる必要があります。生産性の高い時間がどれだけあるかによって仕事のアウトプットは決まるため、少ない人材で労働時間を増やしても解決できるわけではありません。つまり、少ない人材で短時間の労働を行ったとしても、生産性が高ければ仕事のアウトプットを増やすことは可能です。それを実現させるために重要なポイントとなるのが無駄な業務の削減であり、今、企業に求められている業務効率化なのです。
業務効率化を実現させるための3つのポイント
人手不足による生産性の下落を解決する手段のひとつである業務効率化。しかし、計画性を持って効率化にのぞまなければ、大きな効果を発揮することはできません。効果的な業務効率化を実現するための3つのポイントを紹介します。
1. ツールの活用
これまで手作業で行ってきた業務を、RPA(ロボティックプロセスオートメーション)やCRM(顧客管理システム)、SFA(営業支援ツール)といったツールを導入、自動化することで効率化を図ります。
2. 決裁権の分散
決裁権を持つ人間が少人数の場合、属人性が高くなりその人がいなければ業務が進まないといったことも起こりえます。決裁権を分散し、属人性を低くすることで、業務スピード向上の効果が期待できます。
3. 多様な働き方を認める
モバイルワークやテレワークを導入することで、オフィスにいなければ業務が進まないといった状況を改善する方法です。外出先から報告書を書くためだけに帰社しなければならないといったこともなくなり、大幅な業務効率化が期待できます。
業務効率化により売上拡大を実現した企業事例
実際に業務効率化により売上拡大を実現させた事例を、中小企業庁発行の「中小企業白書2018年版」から紹介します。
株式会社ウェルクス(従業員262名、資本金1,200万円)
東京都台東区に所在し、保育士・栄養士の人材紹介などを手がける株式会社ウェルクスでは、求職者情報のやりとりに欠かせないファックス送信にRPAを導入。担当者が退職したため、社長自らが1日4時間以上もかけて対応していた作業が自動化されたことで、本来の社長業務である経営に専念できるようになりました。RPAの導入後、同社の売上高は2.5倍の増加を実現しています。同社社長の三谷氏は「すべてがRPAの効果とはいえないものの、人材採用が難しくなっているなか、RPAによる自動化がなければこれだけの業務拡大は実現できなかった」と語っています。
業務効率化は生産性を高めることが目的であることを忘れずに
今回紹介したような業務効率化を実現させるためには、さまざまな施策が考えられます。実際に独自のアイデアで業務効率化を果たした企業も少なくありません。ここで忘れてはならないのは、なぜ業務効率化が必要なのか、という点です。
基本的に業務効率化は企業の生産性を高めることが最終目的です。限られた時間、限られた社員でこれまでと同じ、もしくはそれ以上の生産性を上げるための手段として、業務効率化を行います。最終目的を忘れてしまい、ただ残業を減らす、会議を減らすといった手段を講じるだけでは、生産性を上げることにはつながりません。上記の企業事例でも、本来やるべき経営に関わる業務時間を増やすことを目的とし、業務の自動化ツールを導入したことが、結果として大幅な売上高増加につながっています。
生産性を上げるという最終目的を全社員が理解したうえで、そのためには何を省き、何を効率化すべきかを考えること。それこそが業務効率化を実現し、結果として生産性の向上にもつながっていくのです。