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取材・文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

YUKI office

長谷川欣則+堀越ふみ江|株式会社UENOA architects 一級建築士事務所

敷地と建物を利用して社員が地域住民と体験を共有できる場にすると同時に、災害時に地域に還元できる仕組みを考える。

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最近は多くの企業がテナントビルの中にオフィスを構えている。では企業はどのような動機で、自社ビルを新築するのだろう。今回はその一例を紹介する。

取り組んでいるのはUENOA architectsの長谷川欣則さんと堀越ふみ江さんだ。
計画地は埼玉県久喜市内のJR東鷲宮駅から徒歩約5分の位置にある。
クライアントは食と健康をテーマに産地直送宅配事業とウエルネス事業を行っている株式会社ゆうきだ。現在の社員は10数名。社員は増えているという。

クライアントからは次のような要望があった。この地域を拠点に事業をしてきたことから地元のために敷地と建物を利用したい。社員や地域住民と一緒に農作業や食育などが体験できる場所にしたい。食品を備蓄して災害時に地域の人に還元できるような仕組みをつくりたい。

「地域の人とどう関わっていくかが今回のテーマ。周辺の市街化調整区域でデベロッパーによる住宅開発が進み、人口が増えており、もともとあったコミュニティは薄れている。普段から何を事業としている企業かわかるようにして、敷地と建物を利用して地域のハブのような場所をつくり、災害時には地域住民が来られるようにすることを目指している」(長谷川さん)。

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「計画の段階から様々な人たちと意見交換をしてきている。久喜市商工会鷲宮支所の協力を得て久喜市と協議し、『一時避難所』としての協定を結ぶ計画が進行中である」(堀越さん)。

敷地面積は約1300㎡。新社屋の規模は木造2階建て延床面積約800㎡だ。

「構造にはCLTを採用し、内部に現れるCLTの壁と壁の間に梁をかけて、木造建築の美しさとダイナミズムをつくり出す予定である」(長谷川さん)。

3つの閉じない線を絡ませ、建築を形作る

「建築の開き方をコントロールするような美しい構成方法はないかと30パターン近く検討し、その中から3本の線がからむ案に可能性を感じた。敷地境界線上にある低い壁から始まり、だんだんと敷地内に向かいながら高い壁となり、いつのまにか建築をつくっているという考え方である。そして線と線の間の閉じたエリアに垂木をかけて屋根を支え、その下を内部空間にする。そして閉じないエリアは半屋外になる。敷地内に畑や水田もつくる計画であり、敷地にあったお稲荷さんもそのまま残す予定だ。この構成で建築をつくると敷地の外から見ると塀がありながら農作業風景が見え、その奥にオフィスがあるようなグラデーションをつくることが可能になる」(長谷川さん)。

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「余白があって人が活動できるような外部をつくることが大事と考えた。なんとなくぼんやりと建築が形作られているような建ち方を目指したい」(堀越さん)。

1階はエントランスホール、ラウンジ、展示スペース、研修室、複数のガーデンルーム、そしてキッチンカウンターや日本酒のセラーなどがある食育ルーム、備蓄倉庫、トレーニングルームなどからなる。ラウンジ、食育ルーム、研修室はひとつの空間として使用できるようにする。2階は執務空間だ。

「1階は地域に開き、外部の人が入ってくる要素を強くする。食育、講演、企業の事業活動が経験できるようにする。社員に対しては働く場と教育の場を充実させる。2つの機能をうまく共存させられたらいい」(堀越さん)。

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さて最近UENOA architectsはオフィスのプロジェクトが多いという。

「建築に関することに限らない様々な相談から始まり、最終的には建築の力で応え、新しい空気感を会社内に生み出すことができていると感じる」(長谷川さん)

「社員各個人を大事にして多様に働くということになってきたという背景もあるようだ。若い人を採用したい、ゆったりした雰囲気にしたいなどの課題が潜んでいて、それを打ち合わせのなかで引き出していって会社全体を変えていくということが多い」(堀越さん)。

事業承継、人材確保、働き方改革など企業が抱える課題は多い。それは建築を考えるきっかけになる。そしてそのような課題に対して建築家はデザインを通してどう応えるのか。今後様々な事例が現れてくる予感がする。

[プロジェクト概要]
YUKI office (株式会社ゆうき本社屋新築計画)
主要用途:事務所
建設予定地:埼玉県久喜市西大輪3-1-5
施主名:株式会社ゆうき
工事予定期間:2023年4月-2024年3月
主構造形式:木造(一部鉄骨)
敷地面積:1236.83㎡
建築面積:435.20㎡
延床面積:750.45㎡

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[プロフィール]

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長谷川 欣則 はせがわ よしのり
1980年埼玉県小川町生まれ。2004年明治大学理工学部建築学科卒業。06年明治大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了(田路貴浩研究室)。同年西沢立衛建築設計事務所入所。08年岡田公彦建築設計事務所入所。13年~UENOA architects共同主宰。18年東京藝術大学教育研究助手、ものつくり大学非常勤講師。20年東京藝術大学 coi拠点特任講師。21年関東学院大学非常勤講師。21年明治大学兼任講師。

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堀越 ふみ江 ほりこし ふみえ
1981年栃木県生まれ。2003年法政大学工学部建築学科卒業(富永譲研究室)。同年KTA一級建築士事務所入所。13年~UENOA architects共同主宰。16年東京大学大学院農学生命科学研究科修了(稲山正弘研究室) 。20年工学院大学非常勤講師、足利大学非常勤講師。21年関東学院大学非常勤講師。日本建築学会作品選集新人賞。

中崎 隆司 なかさき たかし
建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。

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